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久しぶりに人間らしく。
いただきますと手を合わせ、少し気まずい空気の中で食事の時間が始まった。
「美味しい。ありがと、用意してくれて」
「いや、そんな……! 本当に簡単なものだけで、こんなの何のお礼にもならない……」
「そう? 俺は嬉しいけど」
重たい身体を引き摺りながらでも用意して良かったと、由莉は胸を撫で下ろす。
東条にしてもらった事に比べたら、本当に大したことではないけれど、心なしか東条の纏う雰囲気が柔らかいものに変わった。
この空気の中なら、少しは会話がしやすい。
「それで、あの……ヒートが終わったので、今後のことなんですけど」
「……うん。何?」
まだ食事中なのに、嫌なことを思い出させてしまっただろうか。
微かに温度をなくした東条の声に、一瞬怯んでしまいそうになった。
しかし別に怒らせる話をするわけではないからと、由莉はすぐに言葉を続ける。
「次のヒートは自分でどうにかするので、もう大丈夫です」
「は?」
「私の体の都合で東条さんをこんなに長期間縛るのもどうかと思うし、忙しいのは知って……」
「君のヒートに合わせてスケジュールの調整は完璧にしてるし、トラブルがあった時の手配もしてきてる。君が気にする必要はない」
由莉の言葉に被せるように言い切った東条に、番でもない相手にそこまでする必要はないと、思わず言い返しそうになった。
こんな当て付けみたいな皮肉が言いたいわけではないし、喧嘩をしたいわけでもない。
ちゃんと言葉を選ばなきゃ。
「でも……東条さんにあんなのさせるのは、やっぱり嫌だなって……」
「今回は初めてで色々準備が足りなかった。次からはもっと上手くやるから、それでいい?」
「……抑制剤があれば自分でどうにか出来るんです。東条さんが私のヒートに付き合う必要がありますか?」
無理に付き合う必要はないと、気を遣ったつもりだった。
それでも嫌味のような言い方になってしまったのは確かで、絶対に気を悪くしてしまった。
言った瞬間、東条の表情がスッと消える。
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