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しばらくは様子見で、その間にもっと良いオメガが見つかったらそっちに鞍替え。見つかるまではとりあえずキープしておきたいとか、そういうことだろうか。
もしかしたら、お前も優秀な跡取りを残せとか、そういった類のことを両親に言われてオメガを手放せないのかもしれない。
婚約が決まるまですごく早かったし、私が知らないだけでそういう裏もあるのだろうか。
社長だって、今後の東條ホールディングスを継ぐ優秀な跡取りは欲しいはずだ。
「……今すぐに、無理矢理どうこうしたいって思ってるわけじゃない。時間をかけたら変わる事もあるだろ。一回だけで勝手に決断出すな」
時間をかけて、東条さんの気持ちが変わることはあるんだろうか。
いくら普段のデートの時に繕っても、ヒートの度に好感度がマイナスになってしまうのに。
番の契約はアルファがオメガの項を噛むことで結ばれる。
アルファが欲しいと思ってくれないと、いくらヒート中に一緒にいたところで番にはなれない。
番になりたいって私から求めるのは我儘だ。
東条さんは時間を掛けて歩み寄ろうとしてくれているんだから、私だって我慢しないと。
今、東条さんに気持ちを伝えても、ただ重たいと思われるだけだ。
「……気持ち変わったら、言ってください」
「君も、思ってることあったらちゃんと言えよ。どうにかするから」
その言葉に曖昧に笑いながら頷いて、完全に冷めてしまった焼き魚を口に運ぶ。
大きな会社の跡取りの番なんて、ドラマみたいな設定なのにね。内心、そんな皮肉めいたことを呟く。
これがドラマだったら、すぐに両思いになってそのまま番になるのだ。
現実のオメガは、あんなに綺麗な女優さんとは違う。
運命の番のはずなのに愛してなんてもらえなくて、ヒートになったらあんな恥ずかしいだけの行為にアルファを付き合わせないといけない。
ロマンチックなことなんて、創作の中にしかない。
オメガに生まれて良いことなんて、やっぱり何にもないんだよ。
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