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歪な関係だと、由莉も自覚はしている。
婚約して二年経つのにどうして結婚をしないんだろうとか、まだ番にもなってないなんておかしいとか、色々噂されている事だって知っていた。
由莉だけでなく、東条の方も変に勘ぐられることが増えただろう。
結婚する気がないのなら、早々にこんな関係はやめてしまった方がいい。
そんな事はちゃんと分かっているし、由莉から「婚約やめましょう」と提案した方が、東条も色々と進めやすいのかもしれない。
分かっているけど、それでも。
どうしても、自分からは、手放す勇気が出なかった。
この二年間、好きになっても意味がないと分かっているのに、東条への気持ちが消えることはなかった。
それどころか、少しずつ少しずつ想いは募っていくし、一センチでもいいから私の事を好きになってくれないかなとか、そんな厚かましい事まで考えてしまう。
ヒート中でない時は、一緒にいて楽しいのだ。
東条はずっと優しいし、普通に話しているだけで嬉しくて自然と笑ってしまう。
デート中に手を繋いで歩くことも増え、そのくらいの接触なら平常時でも受け入れてくれるのだと思うと、少しは安心した。
人前ではあまりしない、二人きりの時にだけ見せてくれる緩んだ表情が物凄く好きだし、そういう顔を見せてくれる事が純粋に嬉しい。
一応婚約者だからと理由をつけて、誕生日もクリスマスも、イベントごとは東条さんと一緒に過ごしている。
問題なのは、本当にヒート期間だけなのだ。
私は理性が飛んで、東条さんがしてくれる事を受け入れるだけになるし、それに付き合ってくれる東条さんは、ずっと嫌悪が滲んだ表情をしている。
ぐっと眉間に皺を寄せた険しい顔で、極端に溜息の回数が増える。
どれだけ日常で好感度を上げようとしても、ヒートがくる度にそのメーターはゼロどころかマイナスまで落ちるのだ。
好きになってもらうなんて、そんな夢みたいな事があるわけない。
ベータだったら上手くいっていたのだろうかと、そんな風に考えたりもする。
だけどきっと、ベータの私ではスタートラインにさえ立てなかった。
オメガという性を持っていなければ、東条が由莉を認識することさえなかったと思うと皮肉なものだ。
結局、どう足掻いてもうまくいかない。
どういう性であったとしても、東条に好かれる自分なんて想像すら出来なかった。
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