婚姻関係

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 オメガがヒート中に発してしまうフェロモンが、今日は珍しく隆一さんに効いている。  経験したことがないから分からないけれど、噂によるとそれは、何事にも抗えなくなってしまうくらいの破壊力があるらしい。  今ここで番になりたいと。そう言って、本当にさせてしまったらどうしよう。  二年間ずっと嫌がられ、最初のヒートの際に項を隠せとカラーまで贈られたのだ。偶然効果のあった、たった一回の誘惑で、そういう苦労を全部壊してしまったらどうなると思う?  ──ちゃんと番になれたとしても、ただそれだけ。  そんなの、更に嫌われる原因にしかならない。  理性なんてほとんど残っていないけれど、欲に任せてなんでも言っていいわけがないのだ。 「りゅ、いちさんの……いれて、ほしい……」 「……俺の、挿れて欲しいの?」 「うん、欲しい……」 「それだけ? 他にはない?」  私が変な事を口走る前に止めて欲しい。もうこれ以上は何も言いたくなくて、ぐっと口を引き結んで何度も頷いた。  今日だけでも、そのまま挿れてくれたら嬉しい。  由莉のフェロモンが効くことなんて、もうないかもしれないのだ。フェロモンが効いているということは東条だって辛いだろうし、セックスしてしまった方がお互い楽になる。  番になりたいって我が儘は我慢したから、このくらいは許されるはずと、そんな言い訳を頭の中で並べたところで東条が口を開く。 「……駄目だ。ごめんね、出来ない」  てっきり、今日は初めて受け入れてもらえるのだと思っていた。  甘い期待をしていただけにダメージが大きくて、思わず大声を出して反発してしまう。 「……っなんでもしてくれるって、言った!」 「挿れて欲しいとか、ヒートで頭働いてないだけだよ。駄目」 「なんで駄目なの? そのくらい、私だって欲しいよ……!」  痴女のような事を言っていると、冷静な状態だったら気付けたはずだ。  しかし今はヒート中で、期待させておいて一気に突き落とされたような状態だった。冷静とは程遠い。  頑なに「駄目」としか言ってくれない事にどんどん腹が立っていき、悲しさと情けなさでボロボロ涙を流しながら東条に縋り付く。 「じゃ、も、キスだけでいいから、して……」  セックス同様、キスだって今まで一度も経験のないことだ。  半分自棄になって出た言葉ではあったが、キスがしたいというのも由莉の本音であることに間違いはなかった。  東条が折れたのか、セックスよりはマシだと思ったのかは分からない。  しかし唇が触れたのは紛れもない事実で、息が触れた瞬間に心臓が騒がしく動き出す。  柔らかく潰されただけで、直ぐに離れた。たった一度押し当てられただけの行為なのに、じわじわと心臓の辺りが切なく締まっていく。    どれだけ機械で掻き回されるよりも、ずっと凄い。時間をかけて乱されるいつもの行為よりも、今の一瞬の方が嬉しくて、ずっと、ずっと満たされる。 「……き、気持ちい」 「は……」 「どうしよ、今のすごい……うれし、」 「っ、黙って」 「え……」 「っ、あー……くっそ、頭おかしくなりそう」  早く一回終わらせよ。  冷たく言い放たれたその言葉に、自分の指先まで一気に冷たくなった気がした。  それ以上ねだっても、もうキスなんてしてもらえず。  ぐちゃぐちゃに濡れた場所に玩具を突っ込まれて何度もイカされ、限界を迎えたと同時に、ぐらりと揺れて意識が沈んだ。
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