運命じゃない人

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「はい、着いたよ。行こうか」 「……こん、こんなとこ」 「安心して。ここならどれだけ声出してもフェロモン撒いても外に漏れないから」  何も安心することが出来なくて、身を守るようにして胸の前で手を合わせる。  車が停まったのはホテルの駐車場で、一度車を降りた凪は、助手席のドアを開けて由莉の方へ手を伸ばした。  逃げようとしたところで、足に力が入らない事は分かってる。  仮に力が入ったとしても、こんな状態で道を走れるわけがない。だけど、ヒートのような症状が出ている中でアルファとホテルに入るなんて絶対に駄目だ。 「……や、だめ。一人がいい、おねがっ……だめ……」  カタカタと体が震える。  小さく首を振りながら距離を取ろうとするが、すぐに距離を詰められ腕を掴まれた。 「だーめ。一人になんて出来ないよ、一緒にいこ?」 「……っや、やだ! こんなとこ嫌……」 「ヒート中に意地張るのやめようよ。そのままじゃつらいでしょ」 「っひ、や、やだ……!」  由莉が拒もうとしているにも構わず、助手席のシートに手をついた凪が顔を近付ける。  片手で顎を持ち上げられてしまうと避けることもできなくて、そのまま唇が潰された。 「手、退けて。拒まないでよ」 「き、キスやっ……いや……っん」 「んっ……は、上手……」  こんなのは知らないし、したくない。  そうは思うのにまともに抵抗できないのは、オメガという性が相手を受け入れているせいだろうか。  唇の間から入り込んだ舌が由莉のものと絡み、初めての感覚にどんどん頭が働かなくなっていく。口内を撫でるように舌が動くのが気持ち良くて、それだけで簡単に身体から力が抜けていった。  東条にしてもらったものとは全然違う。  こんなに深いやり方を教えられると、唇を合わせるだけの行為なんて、キスでもなんでもなかったんじゃないかとさえ思ってしまう。  触れただけのキスなんて、そんなの事故に近い。  たったあれだけの接触しか許してもらえていないのに、キスしてもらえて嬉しいなんて、どうしてそんな風に思えたんだろう。 「っん、んぅ……」 「は、っん……」  凪のキスで、東条のキスの感触が消えていく。  それが嫌で悲しくて、だけどお腹の奥が疼いて止まらない。  一度唇が離れてからも熱が収まらなくて、早く触って欲しくて怖くなる。   「あー……これ邪魔だなぁ。首輪もう要らないでしょ、外してよ」 「や、だぁ……も、いや……」 「まあ、そんな簡単に捨てられないよね。いいよ、時間はたっぷりあるから」 「っふぁ……、ん」  再度唇が塞がれ、厚い舌が由莉の口内をゆっくりと撫でていく。丁寧に歯列をなぞり上顎まで舐められて、それだけで自分の下着がじんわりと濡れていくのが分かった。 「……あは、キスだけで腰抜けちゃったね。連れていってあげる」 「あ……っも、や……」  制止の言葉さえもうまく紡げない。  脳が痺れて身体が熱くて、凪に触られると正常な判断なんてもう出来なかった。  抱えるように持ち上げられ、簡単に体が宙に浮く。身体の熱を逃がしたいのに、知らないアルファの匂いを吸い込んでしまうだけで熱が増して、苦しくなるだけだった。  抵抗らしい抵抗も碌にできないまま。  横抱きにされた状態で、由莉はあっさりとホテルの一室に連れ込まれてしまった。
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