違う匂い

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 苦しいのも恐怖を感じるのも変わらない。  いくら噛んでも中に出されても上書きなんて出来ないし、これに意味がないことも分かってる。  だけどもう、行為自体を拒むことなんて出来なかった。 「ひっ、あ……あ……んぅ」 「全部気持ち悪い。消して。君の運命は俺だけだった」 「っひぅ、あ……はっ……」  お尻を上げた状態で今度は後ろから挿れられ、奥に押し付けるようにして東条が動く。  動きながら何度も項を噛まれ、その痛みを逃すように由莉はぎゅっとシーツを握った。 「上書きしたい。なんで出来ないんだ? 早く返してくれ」 「ごめ、なさ……っひ、ぅ、噛むのもっ、やめて……」  好きだって信じて欲しい。だから痛いのも苦しいのも受け入れている。  だけど何時間もこんなことを続けられて、由莉の方は流石に身体が限界だった。  たくさん噛まれてたくさん出されて、途中何度か気を失ったのにまだ終わらない。  誰の番でもない状態に戻るまで東条がこれを続けるつもりなら、それは永遠に終わらないのと同義だ。いくらこんな事を続けても、上書きもリセットも出来るわけがないのだから。 「由莉、こっち向いて。キスしたい」 「は……っん、んぅ」  東条さんのしたいこと全部に応えたいけど、本当にいつ終わってくれるんだろう。  泣かせてしまうくらい傷つけて、裏切ってしまった事への罪悪感。東条の想いを拒絶したくないから何時間も耐えているが、これ以上されたら本当に死んでしまう。  苦しい思いをさせたくないという一心で頑張っているけど、もうちゃんと伝わっただろうか。 「も、やだ……くるし、こわ、いの……やだ、しんじゃう……っあ」 「……うん。他の奴に由莉のこと渡すくらいなら一緒に死んでもいい」 「っう……ぅあ、ぁ、ひぅっ……」  冗談に聞こえない。  本当に本気で壊されるんじゃないかと、セックスに対する恐怖だけが募っていく。  今、何時くらいなんだろう。時計を見るために顔を上げる余裕もないし、部屋が暗くて時間なんて分からない。  分かるのは、朝がくるのはまだ遠いって事くらいだ。  明るくなる頃には終わるのだろうか。それまで自分の体力が持つかも分からない。  いっそ本格的に気を失えたら楽になるのに、一度意識を落としても直ぐに引き戻されてしまう。  助けてほしい。もうこれ以上できない。  そんな由莉の願いが天に届いたようなタイミングでピンポーン……と。この場に似つかわしくないインターホンの音が、確かに家の中に響いた。
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