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目立つブロンドの髪色なのに、仕立ての良いスーツを着こなしている長身の男性。
何をしている人なのかなんて分からないけど、モデルをしていると言われても納得する。そのくらい整った容姿の男の人と目が合い、分かりやすく心臓が締め付けられた。
かっこいい人を見掛けて少しドキドキするとか、そういうレベルじゃない。
警告音のような、祝福の鐘のような。初対面の相手で名前さえ知らないのに、それでも本能で分かった。
彼が私の運命なのだと、必死に音を鳴らして脳が告げている。
恐らく、向こうも同じことを感じたのだろう。初対面の相手に向けるに相応しいとは思えない戸惑った表情で、上から下までじっと見つめられて手の平に汗が滲んだ。
「……は? え、あー……あのさ、この子って最近入った子?」
男性に話し掛けられたのは由莉の隣にいた先輩で、「はい、そうなんですよ」と平常より少し高い声で頷く。
「葉月さんは知らないわよね? こちら、東条隆一さん。東條ホールディングスの社長の息子さんなんだけど、ご自身でアパレルの会社も経営しているの」
「は……?」
東條ホールディングスの、って事は、この百貨店の経営者の息子?
確かにオメガの番になれるのはアルファだけだし、もし自分にそういう存在が現れたら、きっとある程度スペックが高い人なのだろうくらいのことは思っていた。
だけど、ここまでくると流石に世界が違いすぎる。
「よく視察にいらっしゃるから葉月さんも覚えておいてね」と、隣でそう紹介してくれる先輩の声がうまく頭に入ってこない。
だってまだ、心臓も脳も初めての事に混乱していて騒がしいままだ。
ちゃんと挨拶しなさいと先輩に注意され、辛うじて頭を下げることができたのを褒めて欲しいくらいだ。
「あの、あー……うん、俺のこと分かる?」
「え……」
「……これ、分かるのって俺だけ?」
恐らく、言葉を選んでくれている。
オメガとか番とか、そういう周囲に勘繰られる言葉を使わないようにしてくれているのだろう。
その気遣いが素直に有難い。直接的なことを言われなくても、東条さんが聞きたい事くらい私にも分かる。
「…………分か、ります。私も」
返事をする声が少し震えた。
言った瞬間に東条の戸惑いの表情が少し解け、安心したように息を吐く。
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