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シャワーを浴びてこいと送り出された後、脱衣所の鏡に映った姿を見て、あまりにも酷い顔をしている自分にびっくりした。
たくさん泣いて目が少し腫れている。髪もボサボサで表情も暗い。
唇は乾燥しているし、叫ぶように声を上げ続けたせいで声も枯れていて可愛くない。
最中は自分がどう見られているのか考える余裕もなかったけど、酷い顔を晒していたのだろうことは容易に想像がつく。
ただでさえ勝ち目がないのに、この酷い姿を晒した直後に、あの綺麗な女性が東条の視界に入ったのだ。何を思われたのか、正直考えたくなかった。
(だけど、考えないといけないんだろうな……)
好きだって言われて、そう思ってくれていた事が純粋に嬉しかった。
だけど、それならどうして早く番にしてくれなかったんだろうって、どうしても思ってしまう。
色々と説明してくれたし、彼なりに私の気持ちを尊重してくれていたのだろう事は分かったつもりだ。
だけど思ってる事があるなら、最初から全部言って欲しかった。
私が望んだら噛んでくれるなら、カラーを贈る時に言ってくれたらよかったのに。
セックスして理性が飛ぶのが心配だっただけなら、本当は挿れたいって一言もらえるだけでも捉え方は違っていた。
責めるような事ばかり考えてしまうけど、本心を伝えなかった時点で私も同じなんだろうか。
重荷になったらどうしようとか、好きって伝えて相手にプレッシャーを与えたくないって思う気持ちは、一応私にだって分かるのだ。
どっちの方が怖かったんだろう。
相手にいつ捨てられるか分からないから、嫌われないようにしようって怯えるオメガと、無理に番って相手の気持ちが一生見えなくなったらどうしようって考える臆病なアルファは。
考えすぎなければもっと単純で、簡単に全部うまくいっていたんだろうか。
ああ、でも、どちらにせよそんなに単純な話ではないのか。
東条さんに合鍵を渡すような関係の女性がいたことは確かだし、過去の事をどれだけ振り返ったって、私が他の人と番ってしまったことは変えられない。
シャワーを終えたら、きっと三人での話し合いになるのだろう。
さっきは東条さんの気が立っていたせいか相手の女性を咎めるようなことを言っていたけれど、冷静に話し合ったら責められるのは私の方だ。
私より付き合いが長いであろう素敵な女性と、もう番うことも出来なくなったオメガを目の前にしての話し合い。
東条さんは優しいから言葉を選んでくれるだろうけど、二人がかりで責められても仕方のない案件だと思う。
「アンタのせいで二年間結婚もできなかったのに全部無駄にしたのね」とか言われたら、本当に謝る事しかできない。そういう事は言わなさそうな人だったけど、私のせいで何かしら不快な思いはしていたと思うし。
「……怖いなぁ、戻るの」
小さく口から溢れた本音は、シャワーの音に掻き消される。
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