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「そっか、良かった。お互い分かるんだ」
「そう……みたいですね」
「ちゃんと話したいんだけどお互い仕事中だし……あー、うん。とりあえず連絡先渡しておくから、今日の仕事終わったら電話して。絶対」
名刺を一枚渡され、指先が少し触れただけで一気に体温が上がった気がした。
了承の意味を込めて由莉が頷けば、嬉しそうに瞳が細められて胸が高鳴る。
「じゃあ、また夜な」
そのままひらひらと手を振って去っていく後ろ姿を見つめ、距離が空いたおかげでようやく普通に呼吸ができるようになった。
それと同時に、一部始終を隣で見ていた先輩が、東条が去った途端に分かりやすく騒ぎ出す。
「え、えっ?! 今の何?! なんで連絡先もらったの?!」
「あ、ええっと……」
ここで「初対面ですが運命によって導かれたパートナーです」なんて言ったらとんだサイコパス女だ。
かと言って、知りませんと言うのは不自然すぎるし……一応、何か返事はしないと。
「実はその……先日財布を忘れた時に、後ろにいた東条さんがお金を貸してくれたり、とか……」
色々考えて作り出した理由を、どうやら先輩は好意的に受け取ってくれたらしい。
「凄い偶然ね」と驚きながら言ってくれたから、ちゃんと信じてくれたのだろう。
変に誤解されずに済んだ事に、とりあえず胸をなでおろす。
今日が初出勤日なのに、最初から嫌な印象を持たれたりしたら今後がつらい。
「それにしても、見ず知らずの人にお金貸すとか凄く優しいのね。外見だけじゃなくて性格まで最高じゃない」
お金を貸す云々は私の作り話だけど、外見がいいのはその通りだ。
ただの跡取りというわけではなく、自分で会社を立ち上げたりしているのだからやり手なのだろう。実際、仕事が出来そうな人だった。
そんな人が本当に、私の番になってくれるんだろうか。
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