オメガ

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 不安と期待が入り混じったまま就業時間を過ごし、仕事初日なのに全然集中できなかった。  定時と同時にタイムカードを打ち、ポケットにしまっておいた名刺を取り出す。  この携帯の番号にかければいいのだろうか。そんなことを思いながら震える指で番号を打ち込み、スマートフォンを耳に当てる。  すぐに出てくれた彼に名前を告げると、「ああ、ちょうどいいや」とあっさりとした返事が返ってきた。  どうやら東条は、この数時間の間に親まで話を通してきたらしい。  行動の早さに驚きつつも、「で、とりあえず婚約するってことでいい?」と聞かれたら、拒否する理由なんて由莉にはなかった。 「あ……はい。大丈夫です……」 「そう、良かった。詳しいことは会って話したいから、とりあえず今から出れる? 店予約したから食べながら話そ」  迎えに行くから分かりやすいところにいてねと、それだけ言われて通話が切れる。  展開の早さに戸惑っている暇さえなく、数分で迎えにきてくれた東条の車に、由莉は意を決して飛び乗った。
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