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京都府警はすぐに来た。犯人としては、逃げ込んだ先が警部の息子の職場なので、場所が悪かったとしか言いようがない。
刑事の1人が手錠をかけた上で、善太郎の父親――速水警部は話す。
「この度は、私の息子が迷惑をかけてすみませんでした」
私は、謙遜する速水警部に対して「そんなことはない」と伝えた。
「いや、そんなことありませんよ? 私、速水くん――というか、善太郎さんのことはよく知っていますし」
「そうですね。私の息子が立志館大学に通っていて、ミステリ研究会で『広江彩香』という友人を持っていたこともよく知っていますし。それで損をすることもありませんからね」
「でも、どうして善太郎さんを勘当してしまったんでしょうか?」
私の質問に対して、速水警部は――申し訳無さそうに答えた。
「――別に、勘当したつもりはなかったんです」
「えっ?」
「でも、刑事の道を諦めたことによって善太郎は一時期やさぐれていて、それで――『お前のようなドラ息子はこの家にいらない』と言ってしまったんです。とっさの一言で善太郎は『勘当された』と勘違いしたのでしょう。当然、私はそんなつもりなんて一切ないですし、善太郎にはまた刑事を目指して頑張ってもらいたいとおもっていますよ?」
私と速水警部の話を聞いていたのか、善太郎は――反応した。
「親父、もう少し早く言ってくれよ」
速水警部の反応は、当然のモノだった。
「ああ、すまないと思っている。――私は、いつでも善太郎を歓迎する」
やれやれ。これで良かったかどうかはさておき、善太郎と速水警部は仲直りできたということなのか。
それから、速水警部は話す。
「後のことは私と善太郎に任せて、広江さんは早く帰ったほうがいいですよ? ――そういえば、広江さんってご職業は何をなされているのでしょうか?」
答えは、言うまでもない。
「――小説家です」
「そうでしたか。――今回の事件を題材に、小説を書いてみるというのはどうでしょうか?」
速水警部はそう言ってくれたけど、私は――そのオファーを断った。
「いや、そこまでの実力はないので……」
「そうですか。――でも、いつかは広江さんの小説を読んでみたいものです」
そう言って、速水警部と善太郎は――飯野一希をパトカーで連行した。
どうせ、私だけ探偵事務所の中にいるのも申し訳ないし、さっさと芦屋に帰るか。
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