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「山村係長、怪しい人物が絞られました」
捜査一課の部屋に山田刑事が飛び込んできた。
「そうか。山田君、わかったか。一体誰なんだ」
「屋敷に住んでおり死んだ山丘山治郎に深く関与していた三名です。一人目はお抱え医師、山中信也。二人目は資産を一手に管理している不動産鑑定士、山下友久。三人目は家政婦の山基凛です」
山丘山治郎は山形県の山林王だ。資産は数百億。その山治郎が一昨日亡くなっていた。心臓発作であった。しかし、鑑識の結果、背中にかすかなうっ血が認められた。昨今の山治郎の病状、死亡時刻から死因はそのうっ血とつながるショック死と推定されていた。そのため本件は捜査一課が担当することになった。
山丘山治郎は戦後の復興期に山口県の貧農に生まれた。早くに両親を亡くし岡山県の遠い親戚に預けられていた。しかし、義務教育を終えるとさっさとそこを飛び出し日本各地をさまようことになる。当時の日本は高度経済成長下、どこに行っても仕事はあった。特に建設業は住まいの心配もなく賃金も上々だった。山治郎は和歌山県、富山県、山梨県などの山奥の建設現場を渡り歩き、身をもって山林や土地開発の実態を学んでいった。そして、鉱山資源が大きなビジネスになることを知る。山治郎が山形にたどり着いたときには山林売買や鉱山発掘に関わるいっぱしのブローカーになっていた。ただし、その頃の山治郎は女性の出入りも多く良い噂が少なかった。そのせいか今となっては家族もなく天涯孤独の身でもあった。
「山田君。何故彼らが怪しいのかね」
「はい、係長。彼らだけが山丘の寝室に入ることが許されていました」
「では、明日山丘の屋敷に行って一人ずつ話を聞いてみよう」
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