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一人目の人物は山中信也。既に還暦を過ぎているが短髪で精悍、フットワークも軽そうだ。世界で一番権威ある賞を受賞しており医学界の大物でもあった。
「山中先生。不躾な質問もしますが職務ゆえご容赦ください。まずは山治郎さんが亡くなった晩の先生の山治郎さんに関する行動をお聞かせください」
「あの日ですか。私は山治郎氏に9時頃呼び出され心臓病の経過を詳しく説明しています。山治郎氏は私の話を熱心に聞いておられました。山治郎氏の心臓はかなり弱っていたのでちょっとしたショックで停止する危険があることも十分理解されていました」
「そうですか。ところで山中先生は世界的なEPS細胞の権威でいらっしゃる。そのご高名な先生がなぜ山治郎さんのお抱え医師に?」
「はい。実は山治郎氏は私の研究の長年の支援者でした。ここの所すっかり弱気になった山治郎氏からご自分の病状の経過をつぶさに観察し、研究に活かしてほしいという申し出があったのです。それに...」
「それに?」
「山治郎氏が亡くなった後はその資産を私の研究に寄贈するということでした」
「なるほど。その晩、山治郎さんに特に変わった様子はありませんでしたか?」
「いいえ。あっ、ただ私が説明を終え部屋を出ようとすると『先生の研究、もっと上手く行けばいいな』とおっしゃいました。あれが最後の言葉になるなんて...」
「山中先生。よくわかりました。ありがとうございます」
「係長。ご高名な先生ですが結構怪しいですね。被害者の健康状態を熟知していらっしゃる。そのうえ背中をいつでも触診可能です」
「ああ」
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