ねらいうち

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 二人目は山下友久。四十前後だが若々しい。その容姿はスリムで目鼻立ちがはっきりしており文字通りアイドルも顔負けの風貌だ。 「山下さん。貴方は山治郎さんが亡くなった晩に山治郎さんにお会いになっていませんか?」 「はい、あの晩は山治郎さんから9時半過ぎに呼び出されました。そして、山治郎さんの資産状況を改めて尋ねられました。私が一通り説明を終えると『儂の死んだ後の資産管理は全てお前にまかせる』と言われ、遺言書と称して鍵の付いたブリーフケースを渡されました。まさかその晩に亡くなってしまうなんて...今でも信じられません」 「ほう。不動産鑑定士の貴方に?なぜ」 「はい、実は私は弁護士の資格も持っているのです」 「えっ、そうなんですか。ところで、貴方は以前この地方でかなり大きな不動産業を営んでいたそうですね。世間では正直不動産と言われ大変評判が良かったとか」 「ええ。ですがその正直さが裏目に出て大手デベロッパーに騙され、事業をすっかり乗っ取られてしまいました」 「そうですか。お気の毒に。ところで、山下さんはなぜ山治郎さんの資産管理を?それも住み込みで?」 「はい、私が事業を始めたきっかけは、学生時代にアルバイトで山治郎さんの山林の売買をお手伝いしたことでした。その時、私に不動産鑑定士や弁護士の資格を取るよう勧められました。実際取得できたのも山治郎さんが私の通っていた大学へ設立した奨学基金のおかげなのです。私が騙され途方に暮れていたのを見かねたのでしょう。声をかけていただきました」 「なるほど。若い時から山治郎さんに信頼されていたわけですね。ところで、山下さん。貴方を騙した大手デベロッパーは山治郎さんのペーパーカンパニー『マウンテンキャピタル』が大株主であることはご存知でしたか?」 「...」 「山下さん。正直にお答え願います」 「はい。知っていました」 「そうですか。ご協力ありがとうございます」 「係長。何だかきな臭くなってきましたね。こうなると山下友久も怪しいですね。それに法や不動産にめっぽう強い。遺言書の話は本当ですかね」 「でも、彼は巷で正直でとおっているしなぁ」
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