《刺青》

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《刺青》

 日が高い朝日よりも昼に起床した河南は大あくびをして自分の身だしなみを気にした。さほど昨日とは変化はない。髪の毛を触ると少し寝癖が付いていた。 「ふわぁ~、昨日のは夢だったのか。はぁ、だりぃ夢見た」 「……なにがだるいって?」 「――えっ」  窓辺に佇んで煙草を吹かそうとした白髪ウサギに河南は仰天する。つまり昨日の性行為は現実だったということになる。 「え、あ、えっ……、なんだお前っ!?」 「なんだって、お前の銃の白道だけど?」  紅の瞳が揺るがずに煙草を吹かした。ニコチンとタールの香りに頭がくらりとする。この状況も含めて誰かに説明して欲しいぐらいだ。  煙草を燻らせる白道に河南は腹が立った。 「クーリングオフする! てめぇみたいな変態親父を買う必要性なんざねぇっ!」 「おぅなんだよ? 昨日はあんあん泣いてよがっていたのによ。――処女卒業おめでとうだな」 「なっ……!?」  赤面してしまう河南に白道は持っていた携帯灰皿で煙草をもみ消した。 「それによ、クーリングオフなんざできねぇぜ主様。お前はもう、俺の主人だ」 「どういうことだよ」  すると白道は急に跪いたかと思えば河南の素足のキスを落す。河南が赤面し蹴り上げた。――ガツンッ! 軽い鈍痛の音がしたかと思えば、足の方から熱が込み上げてくる。  河南は身を捩らせた。 「な、なにした……てめぇっ!」 「なーに、儀式を行っただけだ。性行為をして半日経つぐらいに、僕の印であるキスを落とすとな――服従関係になる」 「……はっ?」  白道はニヒルな笑みを絶やさずに河南を抱き寄せた。身体の熱さでこけそうになる。  すると今度はつま先からふくらはぎにかけてうさぎの刺青が施された。焼けそうなほど熱い刺青に痛みを発して泣きそうになるが、耐える。だが白道はどこか嬉しいそうだ。 「河南の泣き顔はそそられるな~。犯したくなっちまう」 「……死ね」  涙を溜められて威嚇する子ウサギにウサギという名の狼は舌を唸らせる。このまま食べてしまいたいぐらいだ。――だが、儀式はまだ終わっていない。  うさぎの刺青に色が施される。白と紅のウサギだ。その刺青を終えたうえで、儀式は終了となった。  痛みで悶絶とし項垂れる河南を支える。河南は昨日の行為から察するに鍛えられているのはわかるが身体が軽い。しかも柔軟性のある身体というべきか柔らかい。 「さて、儀式は終わって俺とお前とは主従関係になった」 「……解消しろ」 「それはご相談できませんね」  息を吐き出しながら刺青が施された左足を庇うように河南はドアを開けた。その姿を白道が追う。  河南は舌打ちした。 「お前はついてくんな! アジトに行くんだよ」 「嫌だね、俺も連れていけ。マイスイートハニー?」 「……勝手にしろ」  二人は同時に外出した。
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