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《白道という銃》
水を家に置いた後、村長が待つバーに河南は赴いた。
バー『丁』にてベル音を鳴らして入室をすると、黒髪の艶やかな髪ではあるが葉巻を吸い込んでいるサングラスの男が席に座っていた。
鋭い眼光を宿したその粗野な男に河南は息を吐き出す。
「なんだよ村長。そんな殺しそうな瞳で俺を見んじゃねぇよ」
「おぉ、河南か。そ~んなとこに突っ立っていないで席に座れ。なに飲む」
「いや、飲めねぇから。マスター、ウーロン茶一つ」
村長が葉巻を吐き出した。濃縮されたニコチンとタールの香りに河南はわざとせき込む。村長がニヒルに微笑んだ。
「ほぉ~、俺の前で咳き込むなんざ良い身分だな。マスター、白酒頼む」
「はい」
河南の前にはウーロン茶が、村長の前には白酒が出された。白酒とはトウモロコシをベースにして蒸留させた日本でいう焼酎である。
「んで、なんか用事か村長。俺は早くこのヤニ臭い室内から出て、シャワー浴びたいんだけど?」
「まぁまぁ、老人の戯言に付き合えって。それに、――良いもんもやるからよ」
「良いもの?」
冷たいウーロン茶を傾けて一息吐く。やはりウーロン茶は美味いなと感じた。
すると村長が下からアタッシュケースを取り出したのだ。
「はいよ、これが良いもん。中身開けてみな」
「なんだよ、これ?」
パカンと開けて見てみれば、――それは銃であった。リボルバー式ではあるが筒が異常に長く、どうしてだがカートリッジもある。つまりオートマチックでもあるのだ。
「なんだこの銃……? 変わっている形だな」
「それは白道という異形の銃でな。仏のウサギを司っているらしい」
「……は?」
急に話し始める村長のサングラスの輝きに河南は疑念を浮かべた。村長が葉巻を吸い込んで吐き出す。紫煙を燻らせる村長の煙に河南は頭を叩き出したくなる。
「まぁ俺の家系で祀られていた銃でな、100年も祀っていたんだが……お前の力になるだろうと思ってよ。俺が援助してやるってわけ」
「でも明らかにこの銃、ありえねぇ形してんだろ。一応、オートマチックも扱えるけどよ……」
「まぁお前なら扱えるさ。その美貌なら、白道も文句なさそうだし」
「は?」
どうして容姿まで関係あるのかとさらに疑念を募らせるが「なんでもねぇ」そう告げて白酒をグビグビと飲む。白酒は度数がかなり高いはずなのだが、この村長には効かないらしい。
白道を手にしたとき、なんだかこの銃は魂が宿っているなと河南は感じた。使い込まれたものの魂なのかはわからぬが、この重みは変わった形をしているからではないからだとふと考える。
白道をかざして「じゃあもらっておくわ」ウーロン茶代を払って出ようとしたが村長に止められた。
「お前には迷惑かけているからよ、ここは払わせろ」
「あ、あぁ……。助かるな」
手を少し振ってバーを退出する。外の空気の方が気持ち良かった。
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