《我慢》

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《我慢》

「今回の件は水の村が発端だ。だけど、このままこちらも襲撃を行えばあっちの思うツボになる」 「あっちの思うツボって?」  欄賀が久須志から順に紅茶を淹れてくれた。今日はアールグレイらしい。紅茶を一口飲んで美味いなと感じる。 「久須志、お前が平和条約を結ぼうとする敵になってみろ。向こうはこちらも乗っかりたいと願っている。ただ、邪魔だとは思わないか?」 「あ……言われてみれば」  久須志がハッとした様子で紅茶をグビグビ飲む。おかわりはもちろん欄賀が淹れてくれた。礼を告げてふぅふぅと紅茶に息をする久須志に今度は恵良が挟む。 「じゃあ今回の件は見送りってことか。和平条約の為に」 「あぁ。そうしねぇとあのジジイ……、村長も怒るだろうしな」  紅茶を飲んでいくと今度は黙っていた白道が話し出す。 「結構、慎重なんだな。俺を連れて水だが土の村だがに行けばいいのによ」 「馬鹿野郎。そうしたら平和条約の意味が成り立たねぇ。向こうが嫌がらせしてきても、こっちは穏便に返さねぇと示しが付かない」  欄賀が白道と河南のカップに紅茶を注いだ。その拍子に立ちあがる。 「ただ、今のままでは長としての示しがつきませんよ。なんとかしないとですね」 「あぁ、――わかっているさ」  河南はカップに口を付けた。芳醇な香りが河南の思考を弄った。  アジト『火炎』では長である河南の襲撃を受けたことに関しては伏せておいた。四人にも口止めしてある。  長である自分が襲撃されたとなると仲間の皆が喧嘩腰になると踏んだからだ。 「ではこれにて、集会は終了となります。1班と2班は外回りを、3班は門番と合同で警備に当たってください」  皆が欄賀の言葉に敬礼をする。すると恵良が白道と共に佇んでいた河南へ両手を合わせた。 「河南、今日の警備変わってくれないか? 家内がたまには育児の世話しろってうるさくて……」 「あぁ、いいぞ。お子さん、まだ赤ん坊だもんな」 「赤ん坊だな~。可愛いもんよ。河南も良い人見つけて結婚でもしろよ!」  「悪いなっ!」告げて走り出す恵良に河南が手を振れば、白道が肩をこつんと叩いてきた。その表情はいたずらっ子のような笑みである。 「あいつも俺との関係性を知らないからって、無理難題なこと言うよな」 「……俺が結婚できないって?」 「できないな。俺と主従関係である限り、一生できねぇ」  河南が肩を落とした。自分は結婚さえも望めないのだと思うと、この白道をくれた村長に憤りを感じた。だが白道は河南を撫でながら「まぁでもいいんじゃね?」などとニヤついている。  河南は積年の辛みのような視線を向けた。 「そんな顔すんなって~、俺がちゃんと守ってやるからよ」 「なにが守るだ、変態」 「ははっ!」  仲間たちが帰るなかで二人は仲良く喧嘩もどきをしていたのだ。
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