第一章 ①

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第一章 ①

泡沢三四郎が都内の杉並警察署から千葉県警に移動になったのは、連続殺人の主犯である桜井真緒子を取り逃してから8年後の事だった。杉並警察署で刑事になり、4年間は、古玉珠世、通称チッチという女性刑事が泡沢のバディだった。バディとして5年目に突入した時、チッチは福岡県警へと移動となった。それについてチッチは物凄く悲しみ、泡沢に無理矢理有給を取らせ、3日3夜、泡沢の肉体を貪り尽くした。 「2度と先輩のチンポをシコってあげられなくて、私は凄く悲しいです」 チッチはゲッソリした顔の泡沢の見下ろしながらそのなように言った。直ぐ後に再び上に跨り、残り滓まで搾り取ろうと再び腰を動かした。 「お役所仕事に移動は付き物だから、こればかりはどうしようもないさ」 カサカサに渇いた泡沢の喉から発せられた言葉はかろうじてチッチの耳に届けられた。 チッチに好き放題されているのは、今後再びバディとして捜査にあたれるとは限らないからだった。だからされるがまま、チッチに求められれば素直に従い、自ら行為そのものを止めようとはしなかった。チッチにこうして抱かれるのもこれが最後となる事に名残り惜しいでは片付けられない想いがあった。 「やっぱりこれからも勃起刑事を貫くおつもりですか?」 「当然そのつもりだよ」 「なら約束してください」 「別に構わないけど、チッチ、どんな約束をさせるつもりだ?」 「バディが女性になっても、絶対チンポに触れさせない事。当然、シコらせるのも無し。こういうと世の男は シコらせはしないけど、咥えさせるのは良いよな?って平気でいう奴居ますけど、まぁ先輩はそんな男ではない事は私が知ってますから?けど、魔がさしたなんて言った日には私刑に処しますからね!」 とんだ約束をさせれたもんだと泡沢は思った。 「ま、離れ離れですから、新しい彼女が出来たなら、まぁ。許しますよ。仕事でシコるわけじゃないですからね」 チッチはいい、泡沢に口を開くよう促し、緩やかに腰を動かしながらそこへ向けて唾液を垂らした。 「あ!でも、仕事に行く前は必ずヌクわけですから、そうなると彼女とヤル事になるじゃないですか!プライベートのエッチなら許せますが、ああ!盲点でした!先輩は仕事前にヌクんだもんなぁ」 チッチは動きを止め、泡沢が勃起刑事と呼ばれる所以を思い、心底悔しがっていた。 「こうなったら私でしか勃たないチンポに仕上げてあげます!そうなれば、杉並警察も嫌でも私を戻さざる負えなくなりますからね!」 チッチはいい、泡沢の両手を取り、自分の首へあてがった。ゆっくりと絞めさせながら、チッチ自身は激しく腰を動かし始めたのだった。 この時の私はまだ千葉県警で私の通称が知られているとは思ってもいなかった。だが歓迎会と称して自己紹介された時、課長から勃起刑事の泡沢三四郎君だと紹介されてしまい、初日から否が応でも勃起刑事としてやっていかなくてはならなくなった。当然、勃起刑事とのあだ名がついた話をしなくてはならず、女子警官や婦人警官のほとんどが私に軽蔑な眼差しを向けた程だった。 歓迎会の後、 「事件の度にシコるのか?」 と、向かいの席の50代と思われる先輩刑事の小川さんがそう聞いて来た。 「はい。そうなんです」 「噂は本当だったんだな」 「どんな噂なのでしょうか?」 「犯人は見つけられるがいつもシモのせいでホシに逃げられる奴がいるって噂さ」 「はぁ…全く不甲斐ない限りです」 「それでもホシを特定出来るだけすげーじゃねーか。取り逃すのは何もお前さん1人のせいじゃないだろ?」 9割は自分のせいだが、それは口が裂けても言えなかった。 「まぁ、捜査は1人で行うわけじゃないですから」 「だよな。だからあんま力まないで今まで通り、ホシを特定してくれりゃあいいさ。捕まえるのは俺らがやってやる」 小川刑事がそう言ってくれた。 「最近、何か大きな事件でも起きたのですか?」 「オメー何にも知らねーのか?」 「何を、です?」 「ミニシアター大量殺人事件の事だよ」 「それって確か8年前に解決済みじゃぁ…」 「まぁ、一応はそうなんだがな。ただ、最近また、こちらで鋭利な刃物で首をぶった斬られ殺されるという事件が起きたのさ」 「その事件と8年前のミニシアター大量殺人事件とどう関係してるのでしょうか?」 「関係があるかないかはわからねぇ。ただ俺の長年の刑事の勘ってヤツが関わりがあるんじゃねーか?って言ってるのさ」 「お言葉ですが、それは確かスクラップ工場の店主と金銭の貸し借りの問題で争いが起こり、店主が殺した筈じゃ…」 「一応はそうなっている。だが聞き込みに来た刑事に死体が見つかり店主が自殺したってあっただろう?」 「はい」 「あれは嘘なんだよ」 「どういう事ですか?」 「まぁ古い仲間に聞いた話だが、聞き込みの最中、血痕を見つけたらしく、店主が任意なのでお断りしますと言い放ったのを、若い刑事が無視して事務所に押し入ってしまったらしいのよ。まぁ、刑事になりたての新米ホヤホヤの野朗だったらしいから、手柄が欲しかったのだろう。同僚が止めるのも聞かず家探ししたらしい。そこで、風呂場にあった死体を見つけ店主に問い詰めようとしたら、反撃を食らって発砲しちまったのよ」 「なら正当防衛になりませんか?」 「任意だぞ?それを無理に押し入りおまけに6発ぶち込みやがったのさ」 「威嚇発砲もせずに?」 「そうみてえだ。だが店主も中々でな。その若造の腕に包丁で切り掛かり、自分の命と引き換えに、若造の腕を奪っちまった」 「切断されたのですか?」 「切断まではされなかったらしいが、腕の腱を何本もやられて2度と動かす事が出来なくなっちまったらしい」 「不運ですね」 「そうだがそいつがしっかり手順を踏んでさえいりゃあ、そんな目には遭わなかった筈だ。だがそうはしなかった。だから罰が当たったんだろう」 「なるほど」 「とまぁ、あの事件じゃあそういう事があった為に、店主は自殺として処理され、そのように発表されたのさ」 「それはある意味、ヤバいですね」 「警察ってのは身内の不祥事には敏感だ。おまけにここは日本だ。6発も撃ったら普通は懲戒免職は免れねぇ。だがそうはならなかったらしい」 「キャリア組みですか」 「みてえだよ」 私はあの事件でそのような裏話があるとは露とも思わなかった。 「で、だ」 「はい」 「その時に発見された死体のほとんどが斧でやられてたらしいのさ」 「斧、ですか?」 「あぁ。検死で特定されたようだ」 「そうですか」 「そこでだ。最近、頻繁に起きてる殺人事件の凶器も、斧だというのがわかっている」 「という事は小川さん、8年前の凶器と同一って訳ですか」 「そうだ。店主は包丁でキャリア君の腕を使い物にならねーようにした。だが店主が惨殺死体の本当の犯人なら、手段である斧で襲って来ると思わねーか?」 「はぁ。確かにそれはありますね」 「だろ?」 「ええ。だから小川さんは、8年前の犯人と最近起き始めた殺人事件の犯人が同一ではないかと踏んでいるわけですね」 「そうよ。兄ちゃんは物分かりがよくて助かるぜ」 「泡沢です。泡沢三四郎です」 「そうだったか。泡沢、いや勃起刑事さんよ。これからその力ってやつを存分に発揮してもらうぜ」 「あ、はぁ…」 「ったく覇気のねぇ声出すんじゃねーよ。頼むぜ」 小川さんは溜め息混じりにそう言った。 初日という事で私は、午後3時に帰宅させて貰った。引っ越しの後片付けなどがあるだろうとの課長の配慮だった。 私が引っ越した先は警察官僚や各都道府県から研修に来る度に一時的に止まる12階建の高級マンション並みの寮と言われている建物の敷地内の裏にある、1LDKのアパートのような物だった。最初、こんな凄い場所に住まわせてもらえるのか?と思ったが、私の甘い希望は管理人に即座に打ち砕かれた。 「泡沢さんのお部屋はそっちじゃなくてこちらですよ」 と管理人はいい、アパートは日当たりの悪い雑草が生い茂る中に侘しく建っていた。 1LDKの部屋は長年空き家になってカビくさく、私はすぐさま窓という窓を開けた。 「ここって前回住んでた人の退去後にハウスクリーニングなどはされてますよね?」 「勿論、してますよ。5年前の話ですがね」 管理人は悪びれずそう言った。 その間、空気の入れ替えはしていたらしいが、それでもやはりカビ臭かった。お風呂場や洗濯置き場などから排水溝の臭いがもろに上がってきていて、ドブ臭かった。 中をみると溜まっている筈の水がなくそのせいで臭いが直にこの部屋へと上がって来ているようだった。私はその臭いを塞ぐ為にそれらの箇所へと水を流した。 「泡沢さん、これが部屋の鍵です」 渡された鍵は2本あり、1つは合鍵らしい。 「無くさないよう気をつけてくださいね」 「わかりました」 管理人から鍵を受け取る。見るからに使い古された鍵だった。 「私、宝永管理会社の高橋といいます。部屋の中の不具合などがありましたらここへ連絡して下さい。業者を手配いたしますので」 私は手渡された名刺を見ながらそういった。 管理人が出て行ってしばらくは窓から外を眺めていた。 腕時計を確認する。午後4時半を回った所だ。もう少しで引っ越し業者が来る頃だ。 とは言え、届くものは必要最低限の物ばかりだ。冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機、布団と衣類、TVは杉並区のディスカウントショップで買い取って貰った。 今はスマホがあるから、シコる為にわざわざアダルトビデオを借りる必要がない。それに捜査が始まれば自宅にさえまともに帰って来る事は出来なくなる。そうなれば必然的にスマホだけで事足りるのだ。 私は窓の外を眺めながらチッチの事を思い出していた。チッチと約束はしたが、新しい部署でも、彼女のような存在がいて欲しいと思う。事件の度にシコっていたせいか、それとも年齢によるものかわからないが、最近はどうもチンポの勃ちが良くなかった。気のせいかも知れないが、私はそう感じていた。だから正直、サポートしてくれるバディが欲しいのだ。だが歓迎会の時の署内の女性陣の顔をみたら、そのような事をしてくれる仲間はいなさそうだった。 私はインターホンが鳴ったのを聞いて、玄関先へと向かった。 明日からはここの署で刑事としてやって行かなければならない。 それなりに経験があるから不安はないが、事件は少なくあって欲しいと思った。
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