第九章 ①①①

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第九章 ①①①

枝島の厚顔無恥で不遜な態度からして、さぞ立派な家に住んでいると思っていた永剛だったが、その実、枝島の家はこじんまりとした平屋の一軒家だった。 勝手口は茶色いアルミ製の柵で、ノブが取れかかっている。枝島はそこから出入りしているようだった。 つまりこちら側は裏口という訳だ。その裏側にはそこそこ広いと庭があり鉢植えやツツジが植えられている。 緑が薄れて来た芝生には先程抱えていた猫の他に3匹の猫がボール遊びをしたり戯れていた。その猫達も皆、永剛が知っている猫とは違っていた。恐らく外国産の猫なのだろう。庭の隅には小さいが池のような物もあった。 永剛はアルミ製の柵の前で腰を屈め手の平で地面を擦りながら口笛を鳴らした。警戒心が強いのが猫の気質だが、枝島が抱き抱えていた毛の長い猫はそうではなさそうだった。 永剛が動かす手に気づくと興味を持ったのか、直ぐにこちらへやって来た。柵の下にある永剛の指を興味深く観察している。前足を揃え同時に永剛の指目がけ飛んで来た。永剛はそれを寸前で交わすと今度は柵の真下へと手を引っ込めた。俄然、興味がわいたのか、その猫は長い毛を地面に押し付けながら、柵の下に入り込んで来た。 永剛はすかさず空いた手で猫の首根っこを掴んだ。首を押さえ付けたまま、鞄を開ける。授業は午前中のみだから、入っている教科書の類はそれ程多くなかった。その隙間に引っ張り出した猫を無理矢理に押し込んだ。 暴れる猫を殴りつけながら鞄を閉める。急いで立ち上がり鞄を抱きかかえると永剛は辺りを見渡した。そして何食わぬ顔でそのまま走り去った。 帰宅途中、永剛はずっと不安だった。すれ違う人が鞄の中の猫の鳴き声に気づくかも知れないと思ったからだ。 最初の内は、頻繁に暴れ鳴いていた猫だったがそれも徐々に少なくなっていった。鞄の中が狭いせいで暴れれば暴れる程、より動けなくなり苦しくなったのかも知れない。だから家に着く頃にはほとんど鳴くことはなかった。 家に入ると鞄はそのままにして、この猫をどう処分しようか考えた。普通に刺し殺して死骸を枝島の家に投げ入れるだけじゃつまらない。その程度では枝島のババアのダメージはさほどでもない気がした。しばらく考えた後、永剛は財布にお金が入っているか確かめた。そして着替えを済ませて家を出た。 向かう場所は工具屋と釣具屋と決めていた。 工具店ではワイヤー及びハサミとカッターを、釣具店では釣り糸を買うつもりだった。 ワイヤーと釣り糸の両方を買うのは理由があった。どちらが使いやすいかわからなかったからだ。永剛は店に向かいながら、こんな時に自転車があれば楽なんだけどなと思った。 必要な工具を買い揃えると真っ直ぐ家に帰宅した。鞄から猫を取り出す前に、ワイヤーと釣り糸を肩幅サイズに切断した。父が使っていた工具箱から厚手の革手袋とハンマーを用意する。 革手袋はワイヤーや釣り糸で猫の首を絞める時に手を怪我しない為に必要だった。素手でワイヤーや釣り糸を引っ張れば皮膚は切れてしまうし、それに皮膚に食い込み痛くて力が入れられないからだ。 ハンマーは自分の力で猫を絞殺出来なかった場合、もしくは最初に頭を殴り意識を飛ばす為に用意した。そのどちらを最初にやった方が良いのか永剛はわからなかった。 鞄から取り出した後、猫がどのような反応を示すかでやり方も変わってくる気がした。ハンマーで殴るにしてもどの道、猫は鞄から取り出さなくてならない。どうしようか考えた末に永剛はハンマー片手に鞄を開けてみる事にした。開けた瞬間、猫が飛び出して来た事を警戒してのその選択だった。 慎重に鞄の蓋が止めてある金具のボタンを押した。ロックが外れると永剛は蓋の隅を摘みゆっくりと上の方へと持ち上げた。 猫は無理矢理首を折り曲げ、顔だけが上に向いた状態で鞄の中に入っていた。長い尾っぽは鞄の底で自ら踏みつけている。 永剛と目が合うてその猫は威嚇を始めた。 全身の毛が逆立ち剥き出しの牙はいつでも永剛の喉を噛みちぎる覚悟が、その強い意志が宿っていた。襲い掛かるその時を待っているようだった。永剛はそんな猫に少しばかり同情した。 「飼い主は選べないもんな」 そう言って猫に向かって微笑みかけた。 「けど選べないからって恨んじゃ駄目だよ。お前はあのくそババアに選ばれる運命だったんだから。つまりそれはお前の責任でもあるんだよ」 永剛はいい、ハンマーを握った手を振り上げた。柄を握る手に力が入る。猫が更に威嚇した。口に溜まった唾液が牙から垂れている。 永剛は猫の視線から目を逸らさず額に向けてハンマーを振り下ろした。熱で膨張したペットボトルが破裂するような音と共に、額に当たったハンマーの側面から頭蓋骨が割れた手応えがあった。それは手の平へ向かって痺れのように伝わって来た。猫の視点が左右逆方向へ向き、ゆっくり口が閉じられて行く。 「死んだ?」 と永剛は思った。 永剛はハンマーを床に置いて鞄から猫を引っ張り出した。猫は4本の足をゆらゆらとバタつかせながら、未だもがいていた。どうやらまだ死んではいなかったようだ。 床に置いてやると猫はフラフラと揺れながら必死に歩こうと足掻いていた。前足を踏み出すが力が入らないのか、顔から崩れ落ちた。 永剛はワイヤーを持ち輪を作った。その輪の中に猫の首を入れ力いっぱい左右へと引っ張った。猫は4本の足をバタつかせながら伸ばした爪で畳を引っ掻いた。 尻尾が勃起みたいに反り勃つのを見てワイヤーを絞める手に更に力が入った。 永剛の鼻息が荒くなり全身の気が逆立った。額に汗が吹き出して来る。猫の長い毛が永剛の腕に触れくすぐったかった。散々暴れ回った猫だったが、それも直ぐに治まり、舌を出して生き絶えた。永剛は死んだ猫を風呂場へと持って行き、そこへ放り投げた。猫とはいえ、首を絞めて殺すのは中々、大変だった。永剛は絞殺って中々、骨が折れるんだなぁと思った。 猫の死骸を仰向けに寝かせてから、永剛は腹の毛をハサミで切り落として行った。そして首根っこから性器へ向けカッターで切り込みを入れた。皮と肉の隙間にカッターの刃を入れ剥ごうとしたが上手くいかなかった。毛皮にしたかったが、やはり素人では無理そうだった。 技術もそうだが、皮を剥ぐにはその為の専門の器具が必要らしい。あちこち切り込みを入れて試したが、全く駄目だった。仕方なく諦めた永剛はハサミを使い、切れるだけ猫の毛を刈り取った。 その後で切れ目を入れた腹部にハサミを入れ、臓器が見えるように腹部を四角に切り取った。 それが終わると永剛はワイヤーを4本に切り、それぞれ猫の足を縛った。吊るすより磔にした方がインパクトがあると思ったのだ。 永剛は猫の死骸をそのままに、風呂から出るとコップに水を入れた。2杯飲んでから制服を抜いで押し入れの中に入った。鞄から教科書を出し今日の授業の復習をする。それが終わると明日の支度を済ませて夕飯の支度を始めた。 食べ終えると目覚ましを夜中合わせ仮眠を取った。夜中に起きると猫の死骸を紙袋の中へ入れ家を出た。 枝島の家の勝手口につくと革手袋を嵌めた。小さめの懐中電灯をワイヤーを使って真下に灯りが向くように足首に巻きつけた。その後で壊れたノブを回し中へと入って行った。既に寝静まった家からは物音すら聞こえなかった。 永剛は息を潜ませ芝生の真ん中へと移動した。紙袋から猫の死骸を取り出し仰向けに寝かせると4本の足に巻きつけておいたワイヤーを伸ばした。父の工具箱から持って来た釘を芝生に突き刺し、そこへ伸ばしたワイヤーをぐるぐる巻きにした。4本を全てをやり終えると永剛は摺り足で枝島の家から抜け出して行った。 帰宅途中、何度もビデオカメラが有ればなぁと思った。それがあれば一部始終撮影出来るのに。そして朝になって可愛がっていた猫の死骸を見つけた時の枝島の反応を見たかった。それを撮影出来たら何よりの宝物になるに違いない。だがそれは今の永剛にとっては夢のまた夢だった。だから今は想像するしかなかった。 枝島があのだらしない身体を揺すりながら泣き崩れる姿はどんなお笑いよりもさぞ爽快で腹を抱える程に笑わせてくれる筈だ。学校を休んで見に来る手もあったが、それは止める事にした。枝島のババアがいつ起きて来るかわからないし、この辺りをうろついていたら戸宮に見つかってしまう恐れもあった。 だから永剛は枝島のババアを見学する事は、渋々諦める事にした。
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