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第九章 ①①②
飛田と斉藤こだまが結婚したと聞いたのは、つい先日の事だった。吉田萌から英永剛の居所を掴んだと連絡が来たその4日後の事だ。
それを教えてくれたのは小野夢子で、小野夢子自身も2人が結婚した事に驚いた様子だった。
そういう圭介も、
「冗談だろ?」
と小野夢子に問いただした程だ。
「1人で育てるって言ってたよな?」
「うん。言ってた。けどやっぱり現実を考えるとめちゃくちゃ厳しいじゃない?それはこだま自身もわかってたんだけど」
「確かに意地張ってた所あったな」
「そうだね。例の上司とは本気だったみたいだし」
「けど、飛田がやらかした」
「だね。でも結果的にはあの飛田の行為が、こだまの心を揺り動かしたらしいよ」
見直したってやつなのだろうか?と圭介は思った。
「その後で、飛田が何度も何度もこだまを口説いたみたいでさ。どんな仕事をしてでも、2人を幸せにするから!ってそこまで情熱的に言ってくれて、こだまの心が少しずつ飛田に惹かれていったみたい」
幾ら惚れている女だからと言っても、見ず知らずの赤の他人の子供を宿した女とわかった上で結婚するなんて俺には出来ないなと圭介は思った。産まれて来る子供に罪はないが、その子が育つにつれよからぬ感情が芽生えないとも限らない。そんな自分とは違う飛田が正直羨ましいと圭介は思った。
「結婚式はやるのか?」
「身内だけでやるみたいよ」
「そっか、身内だけか」
「お金もかかるからね」
「そうだな。飛田が殴った奴に幾ら払ったかは知らないけど、あいつの事だから大して貯金もないだろうし」
圭介がいうと小野夢子は確かになさそうといい笑った。
「話は変わるけど、仲野部君は結婚はしないの?」
「結婚?まだ早いだろう」
「てことはさ。そういう相手いるんだ?」
「いないよ」
と圭介は嘘をついた。一応、恋人、彼女という立場にマリヤはあるのだろうけど、今、マリヤの存在を誰かに話すつもりはなかった。
小野夢子達にマリヤの事を話した所で、ラピッドに漏れるなんて事は先ずあり得ないだろうが、隠せる情報なら隠した方がいい。
「本当かなぁ」
「何だよ。俺から恋バナが聞けると思ったのか?」
「思った」
小野夢子は言った。
「どうしてそうなるんだよ」
「だってさぁ。仲野部君からその手の話聞いた事ないし」
「だって俺、童貞だし」
「え?マジで?」
「嘘だよ。大学の時、一応彼女はいたからさ」
「え?そうなんだ?ちなみにどんな子だったの?」
「50歳の熟女」
「ちょ、意外。仲野部君てそっち側だったんだ。何かショック」
「嘘だよ。嘘。同い年の子だよ」
「もう、信じたじゃんかぁ」
「悪い悪い」
「電話切ったら皆んなに言わなきゃって思ったし」
「おい」
「嘘だよ」
小野夢子は仕返しよと笑った。
「まぁ、冗談はいいとして、結婚はいつかはするかもだけど、今は全く興味すら無いかなぁ」
「そうなんだね」
「そういう小野はどうなんだよ?彼氏くらいいるんだろ?」
「んーいるちゃいるけど……」
「歯切れが悪いな」
「だって、相手まだ16歳だし」
「又、俺の嘘に対しての仕返しだな」
「ううん、本当だって。皆んなには黙っててよ?」
「おい、マジで言ってんのか?」
「大マジのマジよ」
「ほとんど犯罪だな」
「でしょ?私、若い子がめっちゃ好きで……」
小野夢子はそういいしばらくの間、16歳の彼氏がどれだけ可愛いか惚気つづけた。
「エッチだって毎日だよ?」
「聞きたくねぇ」
その後、お互い高校時代の話で盛り上がると、
又、皆んなで飲みたいねと小野夢子が言った。
「そうだな。セッティングしてくれたら都合つけるよ」
圭介はいい、毎日やるのはいいけど妊娠だけは気をつけろよといい電話を切った。
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