第三章 ②③

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第三章 ②③

道中、トイレ休憩に2度車を止めた。その時1時間程度の仮眠を取った。 道が混んでいたという事もあり夜遅くに家についた。 やはり一般道だと時間がかかる。 余りの疲労感で、圭介は好きではないがこれからはある程度は高速を使うようにしなければと思った。 老婆を小屋に運び入れ、早速作業に取り掛かろうとしたが止めた。 お腹も空いていたし、何より風呂に入って身体を休めたかった。 慌てなくても死体は逃げやしない。久しぶりの肉なのに、ガリガリにやせ細った老婆の身体じゃ鰐達も不憫だが、食べられないよりはマシだろう。 圭介は水槽を2、3回ノックして小屋から出て行った。 家の明かりが消えているという事は、両親2人は既に眠っているようだ。出来るだけ物音に気をつけながら圭介は風呂場へと向かった。 湯船に浸かり疲れを癒すと明かりの光量を最大限に落とし、薄暗いリビングで遅い夕食を取った。 部屋に戻り髪を乾かすと直ぐに横になった。 明日の朝の魚釣りは中止にしよう。 決して豪勢な肉ではないが、魚よりはマシだ。 そのように考えていると、いつしか眠りに落ちて行った。 身体が覚えているのだろう、普段と同じ時間に目が覚めた。本来ならこのまま起きて魚を釣りに出かけるが、今日はそれをしなくていい。 圭介は少しばかりホッとして再び瞼を閉じた。 目が覚めるとお昼近くだった。自分では気づいていなかったが、相当疲れていたようだ。長距離の車の運転もその原因の1つに違いない。 とりあえずシャワーを浴びて顔を洗い歯磨きをした。空腹は感じなかったからコーヒーとヨーグルトだけで済ませた。 家を出て小屋に向かう。床に放り出していた老婆の側に立ち見下ろした。 肩甲骨あたりまで伸びた真っ白な髪は額の方からかなり禿げ上がっている。潤いの失った肌はヤスリに触れているようにカサカサだ。 爪は黄ばみ、瞼を開けば眼球に赤い斑点が浮かんでいた。相当な力で首を絞められたようだ。 一体、この老婆はどういう経緯でラピッドから目をつけられたのだろう。手を下したのは老婆の家族のようだが、認知症の介護に疲れたと考えるのが妥当だろうが、ラピッドがこの老婆を殺害する予定であったのは間違いはないのだろう。だから今、こうして自分の側に老婆の死体が転がっている訳だ。結果、ラピッドから目をつけられていた事を踏まえると、やはり生前はろくでもない人間だったのだろう。 服を脱がし見窄らしくなった身体をタイル床の上に晒す。大きめの斧を持ち、腕から切断して行った。流石にこの歳とこの身体では興奮もしなかった。圭介は淡々と老婆の身体を解体して行った。手足を四つの部位に切り落としていった。 頭部は長い髪の毛をバリカンで刈った。 胴体は腹をナイフで切り裂き内臓を取り出してバケツに入れた。 それぞれの部位を水槽まで運び、内臓の入ったバケツを持って水槽に立て掛けてある脚立に登った。ひっくり返すよう、内臓を水槽の中に放り投げると、鰐達は血の匂いを嗅ぎつけ、沈んでいく内臓へ向かい、ゆっくりとその大きな身体を動かし始めた。 脚立から降りた圭介は解体した老婆の部位を次々と水槽の中に投げ入れた。鰐達はその老婆の元身体近づいて来て素早く噛みついた。 タイル床に洗剤を撒き広がった血をブラシで擦り水で洗い流す。一連の動作を2度繰り返し、圭介はゴーグルとマスクを外し作業着を脱いだ 血塗れの工具を洗い、ナイフと斧の刃を研いだ。軽く油を噴霧して、棚に戻す。丁寧に手入れされ綺麗に整頓された工具類を眺めるのが圭介は好きだった。 綺麗でなければ、仕事も上手く捗らない、圭介はそのように考えるタイプだった。 明かりを消し小屋を出た。しっかりと施錠をして家に戻った。 再びシャワーを浴びて部屋に戻りスマホを確認する。斉藤こだまからLINEが届いていた。 見ると、今度また飲み会をやるから、参加出来る?というものだった。 そのLINEを読んだ後、圭介は飲み会の日程と、都内で今やっている映画を照らし合わせてみた。観たいものが無ければ飲み会は断わろうと思ったのだ。 とりあえず圭介の興味を引いた映画が2本あった。1本はサイコサスペンスでもう1本は盲目の少女が家族を殺され、1人叔母に引き取られるが、陰で両親の悪口や自身をお荷物だと愚痴る叔母を見て少女は叔母の金を盗んで家出をし、旅をする、というような内容だった。大好きなホラーはやってなかったがこの2つの内、1本を観ようと思った。 圭介は斉藤こだまに、大丈夫。いいよと返信した。 「食べたいものとかある?」 仕事が休みなのか、それとも暇なのか、送った先から斉藤こだまからの返事が返って来た。 「特にないかな。何でもいい。お店が決まったら又、連絡して」 そっけなさは自分でもわかっていた。けれど、ダラダラと話すのは面倒だ。だから要件だけ伝える事にしたのだった。 「わかった。他の皆んなにも聞いてから決めるね」 既読無視をしながら、結局適当な居酒屋に落ち着くだろうなと思い圭介はスマホをベッドに放り投げた。
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