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第三章 ②⑤
皆んなの都合が合うのが2週間後の金曜日だと斉藤こだまからLINEが届いていたのは、老婆を処理して3日後の昼過ぎの事だった。
圭介はシンプルにわかったとだけ返信すると、返信は直ぐに返って来て、場所は前回と同じで斉藤こだまが学生時代にバイトしている居酒屋に19時に、という事だった。
斉藤こだまは常にスマホと睨めっこしてるのか?と圭介は思いながら既読無視をした。
両親は旅行の支度を終えて午前中に出かけて行った。
「いつ頃帰ってくる?」
わざとらしい圭介の問いかけに父親はニヤリとだけ笑って、それを答えとした。
まぁ。好きなだけ楽しんで来ればいい。
2人だけの時間なんて何十年もなかったのだろうから。
両親が出かけて行ってしばらくしてから、圭介はがらんとした家の静けさに神妙な表情を浮かべた。
良く耳を澄ませば、外の物音や近所に配達に来たのだろう、名前を呼ぶ声も聞こえたりする。だが至って家内はしんとしていた。
部屋を出てリビングに向かう。冷蔵庫の音や自分の息遣いが耳障りなくらいに感じるほど、静かだった。
いつか両親が亡くなれば、このような静けさの中で生活をしなくてはならないのか。
静かな空気は嫌いじゃないが、それは少し寂しいかもな、と圭介は思った。
自分に彼女が出来、結婚するイメージを思い浮かべようとするが出来なかった。
現実にそれが叶ったとして、お父さんのように、ラピッドの仕事を、自分の奥さんに隠しきれる自信もない。
それに死姦に欲情するという性癖も問題だった。生身の女性と出来ないわけじゃない。興奮度が段違いなのだ。
でも、それは何とか隠し切れる自信はあったが、奥さんが自分に対して無頓着な性格でなければ、小屋の事を詮索してくるだろう。
自分が家にいない時に鍵を壊され中を見られないとも限らないのだ。そうなると面倒だ。やはりこの仕事を続けている以上、自分は結婚には向いていないのかも知れない。それに倫理的に人を殺す事が平気な人間など、そうそう居るはずもない。
それが許せて、気にも留めないような人間は自分を含め、やはり何処か狂っているに違いない。
兵士なども、職業として人を殺す。だが、そんな中にあっても少なからず精神を病む人間もいるのだ。その点、圭介は人を殺害する事に何も感じはしない。
あるとすればそれは圭介自身の正義感、そして僅かな快楽だ。それ以上はない。
人を殺すという事は害虫を殺すのと何ら変わらないのだ。命は平等だという奴等もいるが、平等に扱わない奴が平気で生きている世の中ほど、腐った世界はない。
だからラピッドという組織があり、処理人、そして漂白者が存在すのだ。ならばやはり自分が結婚するとしたら、組織の人間が1番良いのだろうなと圭介は思った。
だが、こればかりは縁による所が大きいし、女性が何人いるかもわからないのだから何とも言えないが。
スマホをチェックしラピッドからメールが届いていないかチェックする。普段、圭介のスマホはサイレントにしている場合が多い。
なので、このように度々チェックする必要に駆られるが、それは苦にはしていなかった。
遅めの昼食を簡単に済ませてから、1時間ほどトレーニングで汗を流した。シャワーを浴びた後、小屋に行き、鰐の水槽から水を抜いた。
中に入るわけにはいかないので、長い柄のついたブラシを持って水槽上まで登り、まだがりながらブラシの届く範囲を掃除する。
座ったまま身体を移動させ、また同じように掃除をした。
あらかた終わると一旦降りて蛇口につなげてある水道ホース手に持った。
水を出しながら水槽上へとあがり、汚れを洗い流した。前足が欠損している鰐は圭介がかける水が気持ちいいのが、目を閉じてじっと動かなかった。
ホースを水槽の中に入れたまま圭介は水槽から降りると排水バルブを閉めた。
水が貯まるまで、数時間はかかる。その間、圭介は道具の手入れに汗を流した。
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