15人が本棚に入れています
本棚に追加
第三章 ③②
泡沢が発見されたのは翌日の早朝だった。
他の倉庫の作業員が、使われていない倉庫前に止めてある車を不審に思い、中に入ってみた所、血塗れの3人を発見したのだ。
慌てて警察に連絡を取った作業員は、興奮のせいか、衝撃のせいか、警察や救急車がくるまで落ち着かない様子で倉庫前で行ったり来たしていた。
警察に、見つけた時の様子を話すとようやく落ち着いたのか、表情も若干緩やかになっていった。
女性2人は死んでいたが、男の方は奇跡的にまだ息があった。
それを耳にした第1発見者の作業員は自分がとった行動を誇りに思った。
そして職場に戻ると、幾度となく仕事をほっぽり出しては事件現場の状況を語るのだった。
小川刑事が泡沢が何かしら事件に巻き込まれたのを耳にしたのは午前10時頃だった。
運ばれた病院の名を聞くと飛ぶように署から出て行った。
集中治療室に入れられた泡沢とは面会謝絶だった。
刑事だと名乗ったが、医者は頑なに中へとは入れてくれなかった。
小川は集中治療室の前の長椅子に座りながら、柄にもなく、泡沢が息を吹き返すよう神に仏に祈った。
小川刑事が若い頃、先輩刑事がチンピラに刺殺された事があったが、その時は悲しくも悔しくもなかった。
むしろ自業自得だと思っていて、葬儀にも顔を出さなかった。
後々、その事で上司にどやされたが気にもしなかった。何故ならその先輩には黒い噂が付き纏っていたからだ。
結局、その噂は噂で終わり、いつしか誰も口にしなくなったが、小川は今でもたまに思い出しては、その先輩の事をなじったりしていた。
「ママの次はミミちゃんか。おまけに泡沢と相棒だった現職の女刑事も殺されている。運良く、泡沢はまだ死んじゃいないが……あいつは元相棒をこっちに呼んで何をしようとしてたんだ?助言なら電話で済む。女刑事はどうやら非番だったらしいが、泡沢を心配してこっちまで足を伸ばして来たのか?わからねぇ。が、どちらにしろこっちに来てからの泡沢は勃起刑事として全く機能してなかったから、期待されていた分、相当なストレスを感じていたにちげぇねぇ。そんな時に元相棒がやって来てくれた。泡沢本人は今までの不振を元相棒と会う事で名誉挽回しようとしていた筈だ。
その矢先、不運にもあんな目に遭っちまった。女性2人からは性的暴行の跡もあり、精液も採取出来ているという。ホシは泡沢の目の前で2人の女をレイプし殺害したのだ。天使のママの事件に始まり、この一連の殺人はスナック天使の2人に対しての怨恨に違いない。そこにたまたま居合わせた泡沢と女刑事は多分、とばっちりを受けた形だ。だが……」と小川は思った。
「車はミミちゃんのだ。普段、ミミちゃんが車で出勤する事はなかった筈だ。そんな所は一度として見た事はなかった。何かしらの用事があったのか。
少なからず車内からは泡沢と女刑事の指紋は発見出来ている。つまり、泡沢達はミミちゃんを含めた3人でドライブ中に何者かに襲われた可能性が高い。そしてあの倉庫へ連れて行かれて……これは明らかに単独犯じゃ出来ねー犯罪だ。複数、つまり5人以上でなければ3人を拉致する事は無理だ。仮にも現職の刑事が2人もいるんだ。拳銃を携帯していなかったとは言え、2人ともそれなりに柔道や剣道の心得がある。そんな人間2人を相手にするなら、やはり複数人、もしくは拳銃などの銃器でも無けりゃ無理ってもんだ」
小川刑事は悶々としながら煙草を取り出した。
喫煙所は病院外にある。
が、そこまで行く気になれなかった。携帯灰皿を取り出し煙草に火をつける。人としてクズな行為をしている自覚はあった。
だが泡沢がいつ目を覚ますかわからない。目を覚ました時、真っ先に話をするのは現在相棒である俺じゃなければならない。でなきゃ何の為の相棒か。小川はタバコを一気に吸い、それを携帯灰皿に押し込んだ。
小川は長椅子から立ち上がり辺りを見渡した。
周囲には誰もいなかった。立ち上がり集中治療室の扉の前に立ちドアノブに手をかけた時、携帯電話が鳴った。
小川はクソっと言葉を吐き捨て、渋々電話に出た。と同時に課長の怒声が聞こえ小川は携帯電話を耳から離した。
「わかったか!」
何を怒鳴っていたかは知らないが、小川はわかってますよと返し、仕方なく署へ戻る事にした。
最初のコメントを投稿しよう!