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第四章 ④⓪
ラピッドに虚偽の報告をした翌日の昼、久しぶりにホテル滞在中の両親から電話があった。
どうやら今は九州の熊本にいるらしい。一昔前に流行ったご当地キャラの一つ、くまモンと一緒に写真を撮ったのよと嬉しそうに話す母親の声を聞いて圭介は心から良かったじゃないと伝えた。
圭介が学生の頃、つまり父親がラピッドを退社するまでの母は、何処かしら陰のある存在だった。
一見、普通に振る舞ってはいたが子供ながらも、母親の笑う顔は作られているものだと感じとっていた。
だが今ではその笑顔も心からのものだと感じる事が出来る。きっと父親も母を想い処理人の引退を早めたのだろう。その父親の決断は正しかったのだなと圭介は喋り続ける母親の声を聞きながら思った。
「LINEで写メ送っておいたから」
今では忘れかけているご当地キャラと写真を撮ったくらいで、ここまで嬉しそうにする母親を見たら、きっとくまモンも喜んでくれるに違いない。
「わかったよ。後でちゃんと見るから」
「消しちゃダメだからね?」
「わかってるって」
消すとか保存するなんてのは受け取った者の勝手だと思うが、あえてそれは口に出さなかった。
「熊本、楽しんで来なよ」
「楽しんでるわよ。あ、お父さんと代わる?」
「良いよ。どうせこれからチェックアウトして、又別な所に行く予定なんだろ?」
「良くわかったわね」
「まぁね。だから、代わらなくて良いからさ」
「はぁい」
母親は明るい声で言うと、普通、離れた場所で1人で暮らしている子供に言うであろう、健康の事などの言葉も言わずに電話を切った。
それだけお父さんとの旅行が楽しいと言う事なのだろう。
圭介は電話を切った後、軽めのトレーニングをし簡単な昼食を摂った。
その後で、コンビニに出かけゼリー系の栄養食と歯ブラシ、シャンプー類を幾つか買い込んだ。五月女マリヤに食べさせる為だ。
このような物を食べて体力が回復するとは思えなかったが、それでも食べさせないよりはマシだ。
筋弛緩剤の効果がいつまで続くのか知らないが、体内から排出させる事が出来るのであればやはり食事をさせる以外に方法はないと圭介は考えたのだった。
糞尿の始末は面倒だがそれよりも圭介は五月女マリヤと話してみたかった。
だからといって病院に入院させるわけにも行かない。その情報がラピッドの関係者に漏れない補償など何処にもないからだ。
最近ではICU治療でも筋弛緩剤の使用は少なくなっているとネットには書かれてあった。
副作用があるのか、細かく確認はしなかったが、医療に関しては筋弛緩剤よりも有効な麻酔薬が出来ているようだ。
ラピッドの吉田萌が五月女マリヤに投薬したのが筋弛緩剤のみならば、回復の見込みはあると圭介は踏んでいた。
従来、筋弛緩剤を使って殺害するというは麻酔薬で眠らせその後に筋弛緩剤を投薬し、更に塩化カリウム系の薬剤を投与すると言うのが、殺人ではないが、アメリカの死刑囚に行われていた死刑の方法だったようだ。
今はわからないが、もし筋弛緩剤を使っての殺害であるならば吉田萌もそのように段階を踏んでいると考えるのが妥当だ。
だが吉田萌はそこまで話はしなかった。ただ筋弛緩剤を大量に投与した、それしか言わなかった。
その言葉が事実ならば、尚且つ、初対面の吉田萌の話を信じるならば、全然、五月女マリヤの蘇生のチャンスはある。圭介は僅かに上がった口角を隠す事もせず、家路を急いだ。
帰宅すると圭介は買ってきた物を持っ小屋に向かった。五月女マリヤは昨日見た姿のままで、腹に出した残った精液はかなり固まっていた。
その精液をウエットティッシュで拭った後、タオルを水で濡らした。それを絞り、ゆっくり丁寧に五月女マリヤの身体を拭いていった。
女性器の辺りを拭く時に、微かに欲情した圭介は指を入れしばらく愛撫した。ほとんど濡れる事はなかったが、それでも圭介は満足気な表情を浮かべ、性器から指を引き抜いた。
全身をくまなく拭くと圭介は五月女マリヤを抱え上げ、壁の側まで運んだ。背中を壁にもたれさせ髪の毛を濡らしシャンプーをつける。指の腹でゆっくりと頭皮をマッサージしながら髪の毛も丁寧に洗った。
洗い流しタオルで拭く。その後で圭介は一旦、小屋を出て行った。
家からドライヤーを持って戻り、五月女マリヤの髪を乾かした後で、口にあてがわれている呼吸器を外した。
その時、既に酸素が切れている事に圭介は気がついた。いつ酸素が切れたかわからないが、現状、弱々しいが五月女マリヤは呼吸をしていた。
圭介は予備の酸素ボンベをそのままに、新しい歯ブラシに歯磨き粉をつけ五月女マリヤの歯を磨いた。その後で口に水を含ませた。五月女マリヤの頭を下げさせ口の中に指を入れ口腔内を洗い流した。新たな酸素ボンベに切り替え呼吸器を五月女マリヤの口に装着した。
このボンベがいつ使用出来なくなるかはわからないが、辛うじて自力で呼吸していた五月女マリヤの事を考えると、確率は高いと言えないが、生きられるのではないかと圭介は考えた。
全身をタオルで拭くと、水に濡れていない場所まで運んだ。床ずれを起こす事を考慮し、使わなくなった毛布を部屋から持って来た。それを床に敷きその上に五月女マリヤを寝かせた。タオルケットを上半身にかけてやると、何処となく顔色が良くなった気がした。
圭介のその工程を五月女マリヤはぼんやりとした目で眺めていた。意識はあったが、それを口に出して伝える事が出来なかった。歯痒さが腹の底で湧き上がるが、力の入らない身体同様、どうする事も出来なかった。私の身体を拭き性器をもて遊んだこの男は、一体、何なのだろう。
断片的ではあるが、自分の身に起きた事は何となくわかっていた。自室で眠っている時、腕にチクッとした痛みを感じた。だがよほど深い眠りの中にいたのか最初は夢だと思っていた。だが、その痛みと同時に全身にダルさを感じ始めた。吐き気を覚え、そこで目が覚めると、目の前に見知らぬ女が私を見下ろしていた。微笑むでもなく、淡々と何かをこなす事務的な瞳に、温かみを感じる事が出来なかった。
この女に何かされた事はわかっていた。だが女を祓い避けようにも身体が言う事を聞いてくれず、私はこちらを見下ろす女に抗う事すら出来なかった。
女は私の瞼を押し広げ、瞳を覗き込んだ。
首を振ると再び腕に痛みを覚えた。
そこで初めてこの女が何かしらの注射を私に投与しているのだとその時に気がついた。
それがもう一度行われた後、私の朦朧とした意識が、点けていたテレビの電源をコンセントごと、引き抜かれた時のように私の意識という電源はプツリと音を立てて消え去ってしまった。
それから何時間、幾日過ぎたのかわからないが自分の意識が自分で自覚出来たのは、この男が私の舌を引っ張り、その舌に粘着物を載せた時だった。私は微かに戻って来たばかりの意識の中で、喉が渇き切っている事に気づき、何でも口にしなければ死んでしまうと思っていた。
まさかそれが精液だとはつゆにも知らずにだ。
過去に一度だけ飲んだ事があったがあの時は、気持ち悪くて胃の中の物を全て吐き出した程だった。
だが、今回はそうはならなかった。異様な匂いにも関わらず、それを私は時間をかけて飲み込んだ。
精液が身体の栄養素になるとは思えないが、それでも喉の渇きは微々たるものだが、潤いを得ることが出来た。
だから私は、精液は望まないが、水分的な物を補給をさせて貰いたかった。そんな私の気持ちを悟ってか、男は私の寝床を整えると、ミネラルウォーターを口に含み、唇をあてて来た。私は口の中に入ってくる生温いミネラルウォーターをゆっくりと飲み干した。それを何度か繰り返した後、今度はゼリー状のの栄養補給飲料を私の口の中に押し込んだ。グレープフルーツの味がするそれを私は又、ゆっくりと飲み下していった。
それを見た男は満足したのか、微かに笑みを浮かべ、私の乳房を弄り始めた。
どうやらこの男は私を助けるのは自らの性的欲求を満たす為だけのように感じられた。
逃げる事も拒む事も出来ない状態の今の私は、好きなだけやって良いよと男に伝えたかった。
男はそんな私の気持ちを察したのか、しばらく私の乳房を愛撫した後、私の手を掴み、ペニスを握らせた。そして動けない私の身体を自らの手で動かし、深い吐息を吐き始めた。
私はそんな男の表情を見たかった。こんな身体にされる前から、私は男が興奮していく様を眺めるのが好きだった。
特に射精寸前の表情なんて、たまらなく大好きで、その表情だけでイク事が出来るほどだった。だが今はその男の表情をうまく見る事が出来ず、寂しさを覚えた。
そう私が感じていると、男の動きが止まった。微かに下腹部に温かい物を感じられたので、私は男が射精した事に気づく事が出来た。男は丁寧に出した精液を拭くと私にキスをして、この何処かわからない場所から出て行ったようだった。
五月女マリヤの光の失いかけたその目に微かに光が宿ったと感じ取ったのは圭介が口移しでミネラルウォーターを上げた後だった。
確信はなかったが続けてゼリーを食べさせると女は自らの力でそれを飲み込んだ。それを見た圭介は女に、五月女マリヤという女に生きる意志があると思った。
半分ほど食べさせると、圭介は女の乳房に触れた。身体の感覚が戻っているか確かめる為だった。
だがそれは、枯れた呼吸を繰り返す女の息によって圭介の意識に刺激を与えた。気づいたら圭介は欲望のまま女の乳房を愛撫していた。半パンを脱ぎ五月女マリヤの手を取り勃起したペニスを握らせ、ゆっくりとそして素早くを繰り返し、圭介は再び五月女マリヤの下腹部へと射精した。その瞬間、圭介は女の顔を見た。
視線を感じたからだった。だが女の目に正気はなく、圭介は僅かに落胆した。
下腹部に出した精液を綺麗に拭き取ると圭介は半パンを履いて五月女マリヤに口付けをした。
そして生きる意志を持っている女に喜びを感じながら圭介は小屋から出て行った。
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