第八章 ⑨⑦

1/1
前へ
/121ページ
次へ

第八章 ⑨⑦

翌朝、少しだけ早く家を出た。皆んながいる前で遠藤冴子に本を返したくなかったからだ。 教室に入ると来ている生徒はまだ数名程度だった。永剛は自分の席へと向かい鞄を机の上に置くと鞄の中から文庫本を取り出し遠藤冴子の席へと向かった。 文庫本を机の上に置いて何事もなかったかのように自分の席に戻った。その姿を見て数名いた生徒達が徐々に1箇所に集まり出し小声で話し出した。 永剛が遠藤冴子の机に置いた物が気になるのだろう。遠目からその机を眺めながら本だよ本、と1人の生徒が言っているのが聞こえた。永剛はそんな外野の声は無視して鞄から教科書を取り出し机の中に入れ席に着いた。椅子に座るとお尻が痛かった。昨日の夜中、寝ている所をお母さんに無理矢理起こされ、下半身だけ裸にされ肛門に何かを押し込まれたせいだ。我慢出来ない程じゃなかったが気にはなる。永剛は一息ついて机の横に鞄をかけた。 しばらくすると続々と生徒達が教室に入って来た。数が増えていくにつれ、教室内が騒がしくなっていく。 中学生になって早3ヶ月、新たな友達が出来た者は鞄を置いたら早々に自分の席から離れ、1箇所に集まっては昨夜見たTVの話に花を咲かせていた。 歌番組に始まりドラマ、お笑いといつ終わるともわからない話題を次から次へと持ち出し意見を交わしている。 そんな様子を耳にしながら永剛は痛みのせいで、座り心地の悪い椅子に少しばかり苛立っていた。我慢は出来るが、やはり痛いものは痛い。その原因を作ったのは勿論、母だった。機嫌が悪い日は決まって荒々しくなる。永剛のお尻に入れる物もソフトな物は使わない。自分の苛立ちを永剛の肛門にぶつけるかのように無理矢理押し込んだり、突いたりした。そのせいで肛門のあちこちが切れてかなりの出血をしたが、母は構わずやり続けた。 そしてちんちんからゴキブリの卵が沢山入った精液が飛び出すと母は不満げに永剛を見上げた。そして休む間も与えてくれず、再びしごき出した。当然、その間も母は様々な道具を使い永剛を痛めつけた。背中を叩き、首を紐で絞めながらお尻をつねり、足の指や甲を踵で踏みつけたりした。痛みにもがき荒々しく息を吐き出すと母の気分が晴れたのか、次第に笑顔になった。 そして2回目の射精の後、母は珍しく永剛のちんちんを舐めた。さすがに中学生にもなると、性についてある程度の知識は得るようになっていた。小学生の頃は精液にゴキブリの卵が入っていると本気で思っていた。(だから母がゴキブリを殺しても増えるのだと信じていた) 流石にそれがあり得ないという事は既に理解していた。でもその精液で産まれて来る人間の中にはゴキブリ以下の奴がいる。だから満更嘘でもないと思っていた。 そして母が自分に対して行っている行為がどういったものなのかも全てではないがわかっていた。それは母のもつ性癖というものだ。永剛に行う事はSMという行為であり、それを幼い永剛に行うのは母が小児性愛者だからだった。 そのようなら事も本で読んでそれとなく知っていた。他人の幼児や小児に手を出さないのは、警察に捕まりたくないからなのかも知れない。その事について永剛は最初から警察や誰かに相談するつもりは全くなかった。 何故なら機嫌が悪い時は嫌だが、そうでない時の母にされるのは好きだったからだ。特にあの綺麗で細い長い指で叩かれるのは堪らなく永剛を興奮させた。だが昨夜の母は機嫌が悪かった為に、永剛の肛門はかなり痛めつけられた。 そのせいで歩く時、ジンジンとした痛みを伴った。だがそれ以上に硬い椅子に座っている時の方が痛みは増幅されていた。ひょっとしたら歩いたせいで傷口が開いたのかも知れない。永剛は授業が始まるまで席を離れず俯き加減でその時を待っていた。 「約束守れたんだ?」 声がした方を見上げると、片手で文庫本を持ち揺らしている遠藤冴子が立っていた。 「返すの遅れてごめんね」 「あのさぁ。英君さぁ」 「何?」 「図書室で本借りたのはあんただよね?」 「そうだけど」 「なら返すのも図書室だよね?」 その言葉で遠藤の言いたい事がわかった。 確かにそうだ。遠藤はあくまでクラスの図書委員ってだけで、貸し出した本を回収する係ではない。その事で遠藤は文句を言いに来たのだと思った。 「私、あんたの親じゃないから」 「ごめん、早く返さなきゃと思って……」 「英君、学校の勉強は出来るみたいだけど、常識ないね」 遠藤はいい、揺らしていた文庫本を机の上に叩きつけようとした。その時、指が滑り文庫本を床に落としてしまった。遠藤はそれを拾い上げ、埃を払う。その後で永剛に突き出そうとして止めた。永剛が返却を忘れた本の内容が気になったようだった。パラパラと捲ったのち、遠藤は「本当になんなの」と棘を含んだ言葉を吐いた。 「英、あんたさ」 君呼びがいつしか呼び捨てに変わっている。 気にはならなかった。 「何?」 「あんた、本当馬鹿だね」 「何が馬鹿なんだよ?」 「これ、図書室の判子が押してないやつじゃん」 「え?」 「図書室の本には背表紙の裏に図書室専用貸し出し本って判子がついてんの」 その事は完全に頭から抜け落ちていた。 今日まで用意しなければと焦っていた為、忘れてしまっていた。そうだ。図書室の本にはそのような判子が押してあるのだ。 「あんた、借りてた本、無くしたんでしょ?」 言い当てられ永剛は返事に詰まった。 「ま、新品のようだから良いけどさ。無くして自腹で新しいの買うくらいなら、借りない方が良いと思うよ」 遠藤はいい、 「仕方ないからこれ、私が返しておくよ。判子も押し直さなきゃいけないからさ」 「ごめん。ありがとう」 そうとしか返せなかった。 遠藤冴子は溜め息をついて自分の席に戻った。文庫本を鞄に入れると席に着く。直ぐに複数の女子が遠藤の周りを固めた。 昨日に引き続き、朝から永剛と会話した事が、周りの女子には格好の話題となるようだった。 ヒソヒソ話が始まると、遠藤の「ないない」という言葉だけが強調され、永剛の耳へと届いた。一体、遠藤には何がないのか永剛にはわからなかった。 ウシガエルを捕まえる、それが理科の先生から永剛に与えられた課題だった。 最初、理科の実験をする上で複数の班に分かれた1つの班が授業の終わりに次の実験では解剖を行うとして、その為に必要なカエルを捕獲して来る事を命令されたが、永剛と同一の班の数人が、理科の先生に永剛はカエルを捕まえるのが非常に上手いのだと嘯き、それを信じた先生が、それなら「英、お前が獲って来い」という話になってしまったのだ。 当然、それが永剛と一緒の班になった者達の嫌がらせというのは直ぐに気がついた。 「英、お前1人で平気だよな?」 「平気平気、だって前にも捕まえてたし」 そのような会話が理科の先生や他の生徒の前で、永剛の気持ちを蔑ろにし、行われたのだった。 仕方なく永剛は先生にわかりましたと告げた。 「来週の今日、解剖するぞ。英、それまでにカエルを捕まえたら先生に言ってから理科室に持って来るように」 その言葉にクラス全員がクスクスと笑った。 ウシガエルを捕まえる。それは簡単そうに思えて、かなり難題だった。真夏であればカエルはあちこちに顔を出す。だがまだ6月だ。活動期には少し早すぎる気がした。 だが来週の理科の授業までにウシガエルを持って来なければいけない。永剛は帰宅途中、昔、河川の土手でカエルを踏み潰し殺した事を思い出した。 あの河川へ行けば見つけられるかも知れない。永剛は今週の土曜日の午後にでも行ってみようと思った。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加