山笑う

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山笑う

 少しずつ気温が上がり始め、地面が見えて雪がカフェオレ色に変わる。踏み固めた雪が夜の間に再び凍ってアイスバーンになる。歩き慣れない僕は、燿のコートの袖を掴んでそろそろと歩いた。彼はからかうように笑っていたけど、僕のスピードにいつも合わせてくれた。 木々が眠りから覚めて、山が表情を取り戻した。 「そろそろ山菜も出るな」 「採りに行く? 操さんが天ぷらにしてくれるって」 「やった! でもお前、ヘビ大丈夫か」 「え…」  顔を出すのは植物だけじゃない。固まった僕の肩を、燿が笑いながら叩いた。 もうすぐ桜の頼りが聞かれる頃、僕は母に電話をかけた。 「あのさ、僕ここにいるよ。ここで過ごしたい」  諦めたような口ぶりで母は尋ねた。 『友だち、出来たの』 「うん。いいヤツ。そいつと一緒にいたい」 『そっか。こっちに来ることがあったら言って。少しでいいから、たまには親らしいことさせて』 「うん」  あんなに気持ちをかき乱されたのが、不思議なくらいだった。燿のおかげかな。 『高校は』 「たぶんこっち。その先は、わかんないけど」  まだ僕の知らない燿がいる。それでもあの時、ここにいていいと言ってくれた気持ちに、僕は応えたいと思った。操さんは高校生になった僕のお弁当を作るのを、早くも楽しみにしている。正直、共働きの母より料理は上手だ。 「陽斗。行くぞ」  耳慣れた燿の声が僕を呼ぶ。 自分たちの卒業式まであと一年。僕らはまたここで、季節を繰り返して大人になる。
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