君のハートが欲しいのです

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 シャワーをお借りしたあと、家を出る。くんくんと腕を鼻の前に持ってきて匂いを嗅いでみたが、よく分からない。ちゃんと血の匂いは消えているのだろうか。  とぼとぼと帰路を歩きながら溜息を吐く。これで今日は何回めになるだろうか。こうして落胆するからには、私にも”心”とやらがあるはずなのだが。 「期待、してたのになぁ」  昨日、教室で告白してきたあの男子は『俺さ、独り暮らしだから』と言っていた。それを近くで聞いていた友人が『あれ、絶対に下心があるよ』と言っていた。  それなのに、さっぱりと分からない。下心というからには、胸部ではなくもう少し下の方にあったのだろうか。けれど、一通り捌いてみたがそれらしき物は見つからなかった。  鞄がやけに重たく感じる。解体でかなり体力を使ったからだろうか。それとも心臓の重みだろうか。家までは10分もかからない距離だが、少し休みたいところ。 「……うぅ」  少し気持ち悪くなってきた。血の匂いをずっと嗅いでいたからだろうか。それとも熱中症の類だろうか。まだ季節は春だが、今日の日差しは少し強い。可能性としては十分にあるだろう。 「あぁ……ダメだ。倒れそう」  立ち眩みのときみたいに、視界が暗くなっていく。手足の感覚は薄らいでいき、自分が今ちゃんと立っているのかさえ分からなくなってきた。  音も消えてしまい、耳鳴りだけが残っている。それでも思考だけは機能しているようで、ふつふつと怒りが湧いてくる。自分はただ”心”というものが知りたかっただけなのに、何故このような目に合わなければらないのか。  『心ない人間だ』と言われたのは誰にだっただろうか。クラスメイトをカッターナイフで切ったときだったか。庭にいた蟻を指で擦りつぶしていたときだったか。  自分にない、その”心”とやらを見てみたかった。だからこうして探していたというわけだが、まさか罰だとかいうわけではあるまい。ただ気になったことを調べてみただけで、悪いはずがないだろう。  そんな思考もついにぼんやりとしてきた。きっと死ぬときというのはこんな感じなのだろうか、と思いながら、意識は深い闇へと沈んでいった。
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