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決して手に入らない厄介な代物
「はっきり言ってさ、男子ってマジで変態だよね。下着なんて水着と変わらないし……ぶっちゃけ肌触りの良い布地に興奮しているようなものだし」
と赤いロングヘアの女子生徒の言葉をきっかけに教室全体の空気が冷たくなった。正確には一致団結したように見える、半数のクラスメートたちの視線が鋭くなっただけかもしれないが。
「そうよそうよ、布地に興奮するなんて最低」
「ただの布地に興奮なんかしねーよ。下着だろうと水着だろうとな」
ソフトモヒカンの男子生徒が反論しようとしたが相手側の策略に気づいてか、彼は自分の席に座りなおした。
「なによ……言いたいことがあるなら言いなさいよ!」
赤いロングヘアの女子にそう言われ、むかついようでソフトモヒカンの男子の額に血管が浮かぶ。
「黙って聞いていれば」
「落ち着けよ。お前が本当に下着ドロボーじゃないなら怒る理由なんてないはずだろう」
爽やかな顔立ちの男子生徒の理屈に納得したらしく、ソフトモヒカンの男子は小さく頷いている。
「ミャアモルトさんも気持ち悪いのは分かるけど、まだこの学校に犯人がいるかは不明なんだから」
「うん……わたしも言い過ぎちゃったね。ごめんね」
「分かってくれれば良いんだ」
そうよねー、モョルタくんの言う通り。まだ下着ドロボーがこの学校にいるかは分からないもんね。
ぶっちゃけさー、モョルタくんにだったら勝負下着を盗まれたいかも。
ねー、わたしもわたしも。
おれもモョルタにならトランクスを盗まれたいな。
モョルタの鶴の一声で女子生徒たちの表情が柔らかくなり、その場はひとまず収まった。
「それで、ぶっちゃけこのクラスに下着ドロボーがいると思っているのか」
「可能性は高いだろうけど……証拠がないからなんとも言えないな。少なくとも下着を盗まれた●●さんに縁のある人物」
「ずいぶんと歪んだ愛情を向けられたもので」
向かい合わせに座るモョルタとソフトモヒカンの男子が声を潜めつつ、●●さんのほうを見ていた。
「学校内でもトップクラスの顔立ちだし、狙われるのも無理ないか」
「容姿はともかく好きな人のものを所有したい気持ち。ある種のコレクター気質とも言えるのかな、度が過ぎているが」
視線に気づいてか、●●さんがモョルタとソフトモヒカンの男子を見る。彼女と目が合いそうになり、二人は顔を逸らす。
「それが下着ドロボーの動機なのか?」
「さあね。とりあえず犯人候補の一人に聞いてみる」
モョルタが自分の席から立ち上がり、爽やかな笑顔をつくって……こちらに近づいてきた。
「あっちで一緒に食べない?」
怪しまれないように肯定をしておいた。
モョルタがこちらに下着ドロボーがどういう理由で、●●さんのものを盗んだと思うか聞いてきた。
「単純に欲しかったんじゃない」
頷き、モョルタが「シンプルな答えだね」と笑う。
もしも……こちらが下着ドロボーだったら一回だけで満足するかどうかを聞いてきた。
「コレクターじゃないし、そんな風に集めようとは個人的には思わないけど。可能性はゼロじゃないでしょう」
「もう少し具体的に言ってくれない」
「欲しい、という感情にも種類がある。今みたいに特定のものを集める場合とあくまでもデザインとかが自分の好みとか」
「今回の下着ドロボーはどっちだろうね」
もちろん後者だった。
●●さんの下着になんて興味はない。そんなのはこの地球上にいる変態に任せておけば良い。
今回の動機はもっと純粋だ。
恋愛マンガなどで異性にトキメクというやつがある。まさしくそれだった。●●さんの身につけていた下着のデザインに心を動かされた。
お世辞にも、●●さんのプロポーションは魅力的ではない。なのにその時の彼女はキラキラとしていた。
プロポーションが魅力的ではないからこそ、そのデザインが輝いて見えたのかもしれない。
盗んだ下着は、ただの布地になってしまった。
今回みたいな経験は以前にもあった。
カップルだった時の彼はキラキラとしていたのに自分のものになった途端に輝かなくなってしまう。
わたしは熱しやすく冷めやすいんだろうか。
それとも、わたしみたいな気持ちになってしまうのが思春期の女の子や下着ドロボーの特徴なんだろうか?
「このまま自首するつもりはないわ。それよりもわたしを捕まえられる証拠もないのにモョルタくんはどうして下着ドロボーだって分かったの?」
「ラッキーな偶然のおかげだよ。●●さんはぼくの恋人でね、たまに下着を見せてくれるぐらいの関係なんだ」
モョルタの発言にソフトモヒカンの男子と一緒に白い目で彼を見てしまう。
「彼女とのそういう関係のおかげで、どんなデザインの下着を盗まれたのかは聞かされていたと?」
「そう。犯人探しというより愚痴みたいなものだけど」
「デザインが分かっただけで、わたしが下着ドロボーだなんてことは」
「かなり前に風のイタズラのおかげで下着ドロボーさんのスカートがめくれて」
似たようなデザインの下着が見えた、などとおそらくモョルタが言い切る前にビンタをしていた。
思っていたよりも力が入っていたようで教室に響く音に驚いたクラスメートたちの視線を集めてしまった。
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