山で出会った彼女のこと

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「理乃さん、お仕事が占い、ってあんまり見えないですね」 「よく言われます。貫禄ないし、同世代で話しやすいって言ってくれる方もいますけど、年配の方だとなんだか不安そうに相談されたりして」 「お仕事のときは、やっぱり、そういう雰囲気作るんですか」 「あります? やっぱり。そういうイメージ。神秘のベールと真っ赤な口紅、水晶玉、みたいな。あやしいカンジ」 「謎に満ちた、ミステリアスな雰囲気」  ふふ、と目尻が下がった黒目がちの瞳が微笑む。キレイな人だな、と理乃はつい見惚れた。 「私は、このままやってて。先生も普通で、占いをもっとオープンにして気軽に利用してほしいって尽力してる方なので。神秘の世界を守るのも、それを求める人もいるから、いいと思うんですけど。私はやっぱり、もっと普通でいいと思って」  受講中、繰り返し語られる先生の想いに触れ、なりたい占い師像も見えてきた。 「知り合いだと打ち明けにくい相談もできますし。自分を見つめ直したいとか、自分について客観的な意見ほしくなったときに、セカンドオピニオンくらいに、気軽に利用してもらえたら」 「セカンドオピニオン、ですか」 「人生の主役って、その人ですから。ファーストなのは、その人自身で」  木陰を投げかけてくれる木々の緑や、枝の向こうの透き通る青空を見上げながら、学ぶうちに感じたことを、少しずつ言葉にしようと努める。 「占いが、人生の天気予報だとして。明日、雨が降るか降らないかをズバリと当てられるより、明日、雨雲集まるので雨降る可能性高いです、出かけるなら傘あった方がいいですね、ってアドバイスできたらいいと思うんですよね、私。あー、ちょっと雨ひどいかもですねって伝えて、でもその日に出かけるか、やめて家にいるかは自分で選んでいいと思うし、自分で選んだ方がいい」  自分の人生にするために。 「占いの読み解きの中には、ちゃんとヒントもあるのに。明日大雨です、だけしか伝えなかったら、答えは明確だけど、明日どうしても出かけたいんです、でも出かけて濡れるのイヤです、どうにか雨が降らない方法ないですか、ってムチャぶりにつながる感じがして。雨雲のコース変えるとか、雨雲消す、とか、できないこと悩んでも解決しないから。悩みが膨らんで、ずっと悩む羽目になっちゃう。そういう風には、なってほしくなくて」  ほう、と文香が息をついた。 「理乃さんが、山のように大きく見えました」 「え」 「すごく頼れる存在に感じて。話聞いてもらいたいなって。私、理乃さんに占ってもらいたいです」 「ホントですか。ありがとうございます」 「ホントに思いますよ。理乃さんみたいな人に、相談してたら」  言葉が途切れる。俯いた文香に、理乃が声をかけようとしたタイミングで顔を上げたときには、強いて笑みを浮かべていた。 「よく来るわけじゃないけど。子供の頃、父がたまに連れてってくれて。山って登ると気持ちいいじゃないですか。嫌いな場所じゃなかったから。理乃さんに会えて、よかった」 「私もです」  理乃は心からの笑顔を返した。顔を前方に戻すと、話に夢中になりすぎたか、文香の連れのカップルの姿がないことに気が付く。 「すみません、なんか随分遅れちゃいましたけど。大丈夫ですか、お連れさん」 「大丈夫ですよ。あの二人、付き合い始めだから。私いても、おジャマ虫だし」 「そうなんですか。いいときですね~」 「いいときですよね。お互い、一番やさしくなれるときかも」  ふと陰った声音に、理乃は文香の表情を見ようとしたが、道にでんと居座った大岩を左右に分かれて避けたのでわからなかった。一緒に三人で来たはいいけど、あの二人が仲良すぎてビミョー、なのかな。  もうすぐ山頂だ。あの二人も休憩しながら文香を待っていることだろう。
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