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お姫さま抱っこしてやるよ
極度に興奮したからか、いつも愛し合ったあとに観る恋愛リアリティーショーに集中できなかった。観るのはたいてい、最新のシーズン11か、拓実のお気に入りのシーズン7。
いま流れているのは、シーズン7の最終回。
郊外の教会でウエディングドレスを着た女性メンバーの何人かがひとりずつ待っている。そこに、タキシードを着た男性メンバーが現れて愛の告白。たまに、ふたり現れることもある。まれに両方フラれることも。そのあと特定の男性メンバーもひとりずつ教会で立って、女性メンバーから愛の告白を受ける。
事前にアンケートを取って男女関係なく相手に告白できるシステムにしたのは、シーズン3からだ。
「はあ、何回観てもいいなあ。憧れる」
「拓実、ウエディングドレスが着たいの?」
「そうじゃなくて、永遠の誓いがうらやましくてさ」
千歳、と声をかけられた。見上げると、拓実は僕の胸元を見つめて撫でる。心臓のところを、まるで僕の心音を確かめるように。
さっきまで熱かった拓実の手。いまではエアコンで冷えていた僕の肌と体温がまざりあって、ちょうどよいあたたかさになっている。
「千歳……好きだよ」
きつく抱きしめられて、思わず声がこぼれた。その声を飲み込むように、拓実は僕の唇を奪った。不意のキスは一瞬で、すぐに拓実の顔は離れていく。
テレビからは歓声が聴こえる。きっと、ラストシーンが映っているんだろう。結ばれた男女の初めてのくちづけ。
拓実と僕は、たくさんのキスを交わしてきた。
十四年前、大学生の頃だった。真夜中に僕のアパートでいっしょに飲んでいたら、拓実から告白された。
戸惑った僕が「お試しなら」と返したら、「じゃあ」と言って唇を押しつけてきた。悲鳴をあげる僕におかまいなし。
ふたりとも、あれがファーストキスだった。
くちづけだけで胸が高鳴った大学時代は、いまではまぶしい思い出だ。身体をつなげてからのキスも好きだ。唇をかさねるだけで、拓実が僕の心の奥まで入ってくるように感じる。
「結婚式のキスって特別なんだろうね」
「ああ。きっとそうだろうなあ」
僕の言葉に、拓実は頷いた。
駅からバスに乗り四十分。バス停から降りると、拓実が手を差し出した。僕は拓実と手をつなぐ。もちろん恋人つなぎ。
ひとが見ていないときは恋人らしいことをしよう。ふたりで決めたルールのひとつだ。
スマホの地図アプリを開いて歩くこと、二十分。目的地だ。
「テレビで観たとおりだ。白薔薇がたくさん。千歳、式が終わったら写真撮ろうな」
「わかった。拓実をお姫さま抱っこしてやるよ」
「そこまでしなくでも!? 腰を痛めてデスクワークができなくなるぞ」
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