8人が本棚に入れています
本棚に追加
付き合って十四年
拓実の無計画な買い物で、僕らの寝室にテレビを置くことになった。
「ほら、千歳が前から欲しかったネット配信対応だぞ!」
車から降りた拓実が、うれしそうにテレビを抱えて家に入ってくる。僕はすかさずつっこみを入れた。
「ドライヤーを買いに行ったんじゃなかったの?」
拓実の話によると、目当てのものをカゴに入れたあと店内をうろうろしたらしい。
よく見たら車には、ドライヤーの箱より目立つ横長の段ボール箱も積んであった。
用事が済んだらすぐに帰ろうな。拓実は寄り道で誘惑されやすいから。
ふたりで行動するときに、僕はいつも拓実にそう言っていた。
「ひとりのときは寄り道ルール解禁かよ、拓実くん?」
「まあまあ。これはいい買い物だって。リビングのは壊れてないから二台目。な?」
リビングのテレビは古くて、配信接続機が非対応だ。確かに僕は、「買い替えるなら、配信が観られるテレビがいい」と、よく言っていた。
ベッドの足元の辺りに、小さなテレビボードを置く拓実。彼はちゃっかりテレビボードも購入していた。
「ほら。この位置と高さなら、地震がきてテレビが倒れても大丈夫」
膝立ちで配線を接続しながら、拓実は振り向いた。
「もうスマホやパソコンで我慢しなくていいぞ。ふたりで観ような、千歳」
付き合って十四年。拓実はいつも、ひらめきと勢いで行動するんだから仕方ない。
「そうだな」
僕は笑って頷いた。僕たちがいっしょに観る番組はひとつしかない。
『カップル成立です! おめでとうございます!』
「いやあ、やっぱシーズン7がいちばん感動するなー!」
ベッドで横になっている拓実が拍手する。僕は拓実の腕におさまっている。首を上げると疲れるので、僕たちはテレビ画面はほとんど観ずに音声を聴いて楽しんでいる。拓実が腕を動かすたびに、僕の身体に振動が伝わってくる。
僕は拓実に抱かれた余韻でうとうとしていた。
同棲して半年と二ヶ月、寝室のテレビを購入してから一週間が経った。
在宅ワークの僕と市役所勤務の拓実は、平日の夕方はもちろん週末も互いの時間がかさなる。そんなときは、いつも拓実に求められる。特に土日は、拓実の『あと一回だけ』が四回続くことだって珍しくない。
今日は土曜日だ。ゆうべ、手こずっていたウェブメディアの連載記事が脱稿した。記事を提出してぐっすり眠っても、ひと仕事終えたテンションは残っていた。
明け方に目を覚ますと、待っていたといわんばかりに激しく拓実に抱かれて、身体がふるえるほどうれしかった。久しぶりの逢瀬だった。
最初のコメントを投稿しよう!