付き合って十四年

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付き合って十四年

拓実(たくみ)の無計画な買い物で、僕らの寝室にテレビを置くことになった。 「ほら、千歳(ちとせ)が前から欲しかったネット配信対応だぞ!」 車から降りた拓実が、うれしそうにテレビを抱えて家に入ってくる。僕はすかさずつっこみを入れた。 「ドライヤーを買いに行ったんじゃなかったの?」 拓実の話によると、目当てのものをカゴに入れたあと店内をうろうろしたらしい。 よく見たら車には、ドライヤーの箱より目立つ横長の段ボール箱も積んであった。 用事が済んだらすぐに帰ろうな。拓実は寄り道で誘惑されやすいから。 ふたりで行動するときに、僕はいつも拓実にそう言っていた。 「ひとりのときは寄り道ルール解禁かよ、拓実くん?」 「まあまあ。これはいい買い物だって。リビングのは壊れてないから二台目。な?」 リビングのテレビは古くて、配信接続機が非対応だ。確かに僕は、「買い替えるなら、配信が観られるテレビがいい」と、よく言っていた。 ベッドの足元の辺りに、小さなテレビボードを置く拓実。彼はちゃっかりテレビボードも購入していた。 「ほら。この位置と高さなら、地震がきてテレビが倒れても大丈夫」 膝立ちで配線を接続しながら、拓実は振り向いた。 「もうスマホやパソコンで我慢しなくていいぞ。ふたりで観ような、千歳」 付き合って十四年。拓実はいつも、ひらめきと勢いで行動するんだから仕方ない。 「そうだな」 僕は笑って頷いた。僕たちがいっしょに観る番組はひとつしかない。 『カップル成立です! おめでとうございます!』 「いやあ、やっぱシーズン7がいちばん感動するなー!」 ベッドで横になっている拓実が拍手する。僕は拓実の腕におさまっている。首を上げると疲れるので、僕たちはテレビ画面はほとんど観ずに音声を聴いて楽しんでいる。拓実が腕を動かすたびに、僕の身体に振動が伝わってくる。 僕は拓実に抱かれた余韻でうとうとしていた。 同棲して半年と二ヶ月、寝室のテレビを購入してから一週間が経った。 在宅ワークの僕と市役所勤務の拓実は、平日の夕方はもちろん週末も互いの時間がかさなる。そんなときは、いつも拓実に求められる。特に土日は、拓実の『あと一回だけ』が四回続くことだって珍しくない。 今日は土曜日だ。ゆうべ、手こずっていたウェブメディアの連載記事が脱稿した。記事を提出してぐっすり眠っても、ひと仕事終えたテンションは残っていた。 明け方に目を覚ますと、待っていたといわんばかりに激しく拓実に抱かれて、身体がふるえるほどうれしかった。久しぶりの逢瀬だった。
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