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父
僕の父は警察官だった。
真面目が服を着て歩いているような、実直な人だった。
夜勤明けはお昼前に帰宅するのが常で、それが学校のない日だと、僕が友達と団地の公園で遊んでいると遠くから歩いて帰って来るのが見えた。
背が高く、姿勢がよく、遠くからでもすぐに父だとわかった。
父は僕に目を留めると、少しだけ歩く速さを緩めた。僕が「お父さん、おかえり」と言うと、父は「ただいま」と言って肯いた。
僕はそれを確認すると、また友達と遊びを続けた。
現代の、友達みたいな、家族サービスを欠かさない父親ではなかった。昭和の、頑固親父に近かったのかもしれない。
父は無口で、冗談なども言わない。正直、面白みのない人間だった。
高卒で警察官になり、ひたすら真面目に働いていた。
そういえば一度だけ、家族で海水浴に出かけた時のことだ。
母が海の家に昼飯を買いに行ってる時に、沖を通る漁船を見てボソッと、「父さんな、ほんとは船乗りになりたかったんだ」と言うのを聞いたことがあった。
それが漁船の船長なのか、大型客船の船員なのかわからない。聞いておけばよかったと、大人になって後悔した。
船乗りにはなれなかった父だったが、警察の仕事に誇りを持っていたのだと思う。
しかし家で仕事の話をすることはなかった。
実際に父がどんな仕事をしているのか、一度も話してもらったことはなかった。
その当時、刑事もののドラマが流行っていて、僕は夢中になって見ていたけれど、「あんなのインチキだ」とも、「父さんの仕事もあんな感じだ」とも話してくれることはなかった。
母は古風な人で、父に逆らうことはしなかった。
昼食を食べて仮眠を取った父が起きてくると、三人で夕食になる。24時間の勤務を終えた父を労ってか、父のおかずは毎回僕達より一品多かった。
母もまた、昭和の女という感じだった。
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