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別れ
父と母は僕が小学校の高学年になる頃に離婚した。
子供の僕には何も告げられず、ある日父は「いってきます」といつものように仕事に出て、そのまま帰ってこなかった。
「お父さんはね、真面目過ぎたのよ」
僕が大人になって、ふと母が漏らしたことがある。
「警察官だって、上司に付け届けは必要だし、派閥とか、そういうのがあったのよ。なのに、お父さんはそういうのが嫌いだから、決してお中元やお歳暮を贈ろうとはしなかったし、誰かに媚びたりもしなかったの。実直過ぎたのね……」
ある事件の捜査のときに、部下の違法捜査が問題になり、父が責任を取って辞職した。上の人は誰も父を庇ってくれなかったらしい。
その後、父は警備会社に再就職したが、その頃から段々夫婦の歯車が狂い始めていたのだろう。
離婚の際の財産分与もほとんどなかったらしい。父は部下を可愛がっていて、薄給の中で部下を家に連れて来てはよく飲ませていた。
「馬鹿な人よね……」
母はそう言って、寂しそうに笑った。
その母も、僕が三十歳を過ぎ結婚した頃に癌を患い、初孫の顔を見て亡くなった。
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