帰宅

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帰宅

 警察出入りの葬儀社に依頼して、父を荼毘に付す手筈を整えた。  そのあと父が暮らしたアパートへ行き、大家さんにお世話になったお礼と迷惑をかけたお詫びをした。 「飯島さん、本当に真面目でいい人だったよ」  孤独死なんて迷惑だろうに、嫌な顔ひとつせず、逆に残念がってくれた。    父の部屋も見せてもらったが、六畳一間のその部屋は几帳面な父らしく綺麗にしてあり、物も少なかったので火葬の日を待つ一日で片付けられた。  火葬場には高倉さんがわざわざ顔を出してくれ、駅まで送ってくれた。  遺骨と共に僕は東京に戻った。 「ただいま」   「おかえりなさい」 「お父さん、おかえり」  妻の美穂(みほ)と七歳になる息子の郁弥(ふみや)が迎えてくれる。 「あなた、お義父さんをお仏壇に」  妻に言われて、僕達の寝室に置いてある仏壇に遺骨を持っていった。    ローチェストの上のコンパクトな仏壇の中には、母の位牌が置かれていた。その仏壇の隣に遺骨を置く。 「はじめまして。お義父さん」 「こんにちは。おじいちゃん」  妻と息子は面識のない父の遺骨にそう声をかけ、三人で線香を上げ手を合わせた。 「お義母さんもびっくりしているでしょうね」  妻が言う。 「まさか、亡くなってからお義父さんが帰ってくるなんてね。でも……」  妻は微笑む。 「お義母さん、お義父さんを待ってたから、喜んでるわね」  仕事が不規則な僕に代わり、末期の癌で入院していた母の世話を妻が最後までしてくれた。そこでいろいろ話をしていて、そう感じたのだという。 「最後まで、気持ちは夫婦だったんでしょうね」  再婚しなかったという父も、同じ気持ちだったのだろうか?  二人があの世で再会できていたらいい、そう思った。
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