山場

1/1
前へ
/4ページ
次へ

山場

夏休みに山田は登山する予定だったが、単位取得のため課題の山に埋もれることになった。追加レポートで赤点の判定が覆るなら喜んで取り組む。しかし、必須科目の単位が足りず、このままでは来年も4度目の大学4年になりそうだ。山田が挑む山はエベレストの如く高く険しかった。 「山田、来年も頑張れよ」 「ああ。次こそは完璧に山を張ってやる」 「いやいや、ちゃんと勉強しておけって!」 「それよりも川田はこれから時間あるか?」 「えっ、何? 時間はあるけど」 「よし。たまには俺に息抜きさせてくれ。今夜は単位を逃した残念会をやる。もちろん、川田のおごりで!」 「はあ? なぜおごりなんだ?」 「それは仕方がないだろ。俺は悩める苦学生。お前は働き盛りのバリバリな社会人3年目なんだから。肉山脯林(にくざんほりん)の限りを尽くしたものを頼む!」 どこかの誰かさんとは違って川田はちゃんと就職していた。 「山田のために働いているわけじゃない。それに無駄に長く大学生活しているのはどうかと思うけど…」 「俺も好きで大学に残っているわけじゃない」 「そうだったのか? てっきりわざと大学4年を繰り返しているのかと…」 「当たり前だろ。ほら、さっさと行くぞ。まず高級焼肉で腹ごしらえだ」 「いや、待て。普通の格安な居酒屋で良いんじゃないか?」 「その後はキャバクラで英気を養うぞ。もちろんお前のおごりで!」 「おい、人の話を聞け!」 「先に言っておこう。俺は財布を持っていない」 「なんで!」 今夜、川田の財布は山場を迎えようとしていた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加