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山場
夏休みに山田は登山する予定だったが、単位取得のため課題の山に埋もれることになった。追加レポートで赤点の判定が覆るなら喜んで取り組む。しかし、必須科目の単位が足りず、このままでは来年も4度目の大学4年になりそうだ。山田が挑む山はエベレストの如く高く険しかった。
「山田、来年も頑張れよ」
「ああ。次こそは完璧に山を張ってやる」
「いやいや、ちゃんと勉強しておけって!」
「それよりも川田はこれから時間あるか?」
「えっ、何? 時間はあるけど」
「よし。たまには俺に息抜きさせてくれ。今夜は単位を逃した残念会をやる。もちろん、川田のおごりで!」
「はあ? なぜおごりなんだ?」
「それは仕方がないだろ。俺は悩める苦学生。お前は働き盛りのバリバリな社会人3年目なんだから。肉山脯林の限りを尽くしたものを頼む!」
どこかの誰かさんとは違って川田はちゃんと就職していた。
「山田のために働いているわけじゃない。それに無駄に長く大学生活しているのはどうかと思うけど…」
「俺も好きで大学に残っているわけじゃない」
「そうだったのか? てっきりわざと大学4年を繰り返しているのかと…」
「当たり前だろ。ほら、さっさと行くぞ。まず高級焼肉で腹ごしらえだ」
「いや、待て。普通の格安な居酒屋で良いんじゃないか?」
「その後はキャバクラで英気を養うぞ。もちろんお前のおごりで!」
「おい、人の話を聞け!」
「先に言っておこう。俺は財布を持っていない」
「なんで!」
今夜、川田の財布は山場を迎えようとしていた。
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