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応答はなかった。
この司令は必要以上に喋るということをしない。だから鍵がかかっていない以上、この司令室には入ってもいいということになる。そうなっているらしい。
Gは最初にこの司令に会った時と同じように、緊張した面もちで扉を開けた。あの時と同じように、司令は実務にいそしんでいる。
「参上致しました」
「当初の命令に首肯したにも関わらず今回の出撃を辞めさせてほしいと申し出たと聞いたが」
間髪居れず、司令は彼に訊ねた。まるで無駄なことは一分一秒でもしたくない、というような口調だった。Gははい、と答える。
話は彼の直属の上官から回っているはずだった。考えに考えた結果だった。
「自分はこの件についてはひどく動揺しています。恐らくは今回の出撃でも冷静な判断はできないものと…」
「…」
Mはすっと音も立てずに立ち上がると、ぱん、と鞭で軽く机を叩いた。その音にGはびく、と身体を震わせる。
「それはお前のする判断ではない」
「は…」
「お前は兵士だろう」
兵士は上官の命令を聞いていればいいのだ、と言外に含まれている。
「…ですが」
大きく鞭の音が、再び響いた。彼の背筋に冷たいものが走る。
「変更はしない」
短い言葉が、決定的な答を突きつける。
「だが弁解は聞こう。何がお前を動揺させる?」
既視感が、彼を襲った。司令は席の前を離れて、ゆっくりと彼に近付いてくる。違うのは、あの時は自分は座っていて、今は立っている。そのことだけだった。
「言え」
「―――僕はレプリカ達を、『一掃』するのに、罪悪感があるんです…」
詰まりかけた喉から、それでも本音が滑りだした。
司令は、微かにその長い髪を揺らせた。同じ黒い髪だが、Gのそれよりもはるかに長い。
「罪悪感か。どんな」
司令は机にもたれかかると、鞭をその手の中でもてあそぶ。Gはそれからやや目をそらしながら、それでもできるだけ本当のことを口にしようとした。
下手に嘘をついても、見破られるなら、本当のことを、核心に触れない程度に言う方がましなのだ。
「判りません」
ぱん、と前より軽い音がする。机ではなく、司令自身の手のひらの上で起こった音だった。
何が判らないのだ、とその音は無言の抗議に彼には聞こえる。
「ただ、僕には、あれがただの機械には思えないのです」
「では何だ?」
「…判りません」
再び、ぱん、と音がした。だが今度は、無言の抗議ではなかった。
「判らないくせにその様なことを言えるのか」
「…」
Gは言葉に詰まった。だが言っていることは嘘ではない。
「では言ってやろう。お前はあれを同種だと感じているのだ。同類だとな」
彼ははっと顔を上げた。
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