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アンジェラス星域の住民… 他星の者はその名前の無い惑星の住民を、その星域の名にちなんで、「天使種」と呼ぶことがある。
当初は冗談半分で使われていた名だが、彼らが「優秀な兵士」であることが知れ渡るとともに、その呼び名自体が冗談ではなくなってきていた。
…本当に天使に近いものになってしまったんじゃないか?
その認識が広がるのに比例して、その呼び名も広がっていったと言える。
だが、その当の天使種にとっては、そんなことはどうでもよかった。
彼らにとって大切なのは、自分達が他の惑星の人間とどう違うか、より、同種の中で、自分がどんな位置に居るか、であったのだ。
すなわち、世代である。
「入っていいか?」
「構わないけど…」
何があったんだ、と突然やってきた年下の友人に、鷹は訊ねた。やや不安定に寄せられた眉と、それでも軽く笑っているように見える、その薄い唇に、ふと鷹は不安を感じた。
扉を閉めると、彼はまっすぐベッドに腰掛けた。
「司令に呼ばれたらしいな? 何かあったのか?」
「…別に無いよ。ただ、名前を聞かれて、世代を聞かれただけだ」
「名前と、世代か」
つまりは自分が誰であるのか明らかにせよ、という。
「もしかしたら、異端分子を探しているのかも知れないよ。だってさ、偉大なる第一世代でしょ? 今度の司令さまは」
「おい」
Gはそのまま背中を倒し、腕を上げて、光を避けるように顔を隠した。表情が見えない、と鷹はその左横に腰を下ろした。
「何、あんたらしくない。こっち来ればいいのに」
片方の手を外して、ぽんぽん、と彼は自分の右横を叩いた。だが年上の友人は、その場から動かなかった。そして動く代わりに訊ねた。
「そうして欲しいのか?」
一拍遅れて、彼は答えた。
「…たぶんね」
「君は何か今日は変だぞ?」
「変? 変かも知れない。たぶん変だよ」
友人は、投げ出された彼の長い髪をもてあそぶ。気づいているのだろうが、彼はそれについては何の反応も見せなかった。
「どんなにあがいた所で、俺達は所詮、第一世代に追いつけはしないんだ」
Gは吐き捨てるように言って、不意に手を顔から外すと、友人の方を向いた。鷹はあの時と同じ様な、やや不安そうな顔でGを見下ろす。
「おい」
「あのひとの前で、俺は、動けなかったんだ」
「だがそれは、…仕方ないだろう?」
「ああそうだ、仕方がないよな。あのひと達は、偉大なる第一世代は、確かにあの厳しい航海の末にたどり着いて、僕らの星の守護と最初に一体化できたんだよな。そんな人達だから、俺達後世代なんかより、ずっと能力も高いし、生存率だって高いし…」
やめろ、と鷹はGの両肩を掴んだ。
それは、言葉にはしてはいけない事項だった。アンジェラスの人間にだけは伝えられるが、それ以外の人間に漏らすことを許されない、彼らの本当の名と同じ、禁制事項だった。
第一世代… 彼らの惑星に、地球から最初に移民としてたどりついた世代は、当初からそのように「適応」した訳ではない。無論当初はその惑星に住むために様々な苦労があったのだ。
彼らはその「偉大なる」業績を上の世代から伝えられる。彼らがどうその地にたどりついて、どうやってその地をそれでも住める環境にしていったのか。
そして、その惑星に当初から存在した「位相の違う先住者」とどう巡り会い、一体化したのか。
特別なのは当然なんだ、とGはその話を思い出すたびに考える。
確かに自分達もそれらと一体化してはいる。生まれてすぐに、「洗礼」のように、それは行われる。
だが、生粋の「人間」であった者が一体化したものと違い、その生物間格差のずれが引き起こす特殊な能力は、世代を増すごとに薄れてきている。
つまりは自分達は、その位相の違う「彼ら」の方に次第に近づいているのだ、と。
大きな、ややつり上がった目が、肩を掴んだままじっと、Gの顔を見据える。
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