第1話 ある日、独立宣言が惑星マレエフに響いた

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「大変なことになったな」  はっとして彼は振り向く。先ほどまで中尉の居た場所に、見慣れた顔があった。苦笑しながら中尉はひらひらと手を振っていた。  声と同時に右の肩を掴まれていたので、彼はやや身体を固くしていた。手が空いていれば、肩を掴んでいる手を力任せにでも外すところである。眉を軽くひそめて、彼は友人を軽くにらんだ。 「右側に立たないでくれって言ったろ? 鷹」 「そんなこと言ってる場合じゃないだろ?」  明るい、張りのある声が答える。まあそうだな、と言いはするが、彼はそれでも軽く首を振る。  後ろで一つに結ばれた長い黒髪が友人の手を軽く打った。苦笑しながら鷹はGの肩からぱっと手を離した。 「それにしても、どういうことなんだろうな?」  何、と彼は友人の方に顔を向ける。鷹の視線は既にGの方ではなく、モニター画面へと移されていた。繰り返されるニュース。そこには再びあの端正な姿の首謀者の姿が映されていた。 「華奢だよな」 「そうだね」 「だが声は野郎のものだよね。…ああ、セクスレスタイプか」 「あんたまた、よく知ってるな」  Gは肩を軽くすくめ、やや苦笑する。レプリカントの用途は色々あるが、最も多いのは… 「常識だろ? 俺の方が君よりややお兄さんなんだからさ。だけど確かに、普通のレプリカとは何処か違うようだな」  さらりと言ってのける鷹に、そうだね、とGはつぶやく。確かに。  何がどう、とはっきり言える訳ではない。何せレプリカントと言ったところで、この時代、最高級に精巧なメカニクルの身体は、生身の人間とまず区別がつかないのだ。  そして、その中でも頭脳に半液体状記憶素子(ハーフリキッドメモリアル)を持つ彼らは、他の、全てのパーツが機械であるメカニクルとは違い、細やかな感情までが人間と実に酷似していた。  人間との恋愛沙汰が問題となるのは、どのメカニクルの中でもレプリカントが最も多い。 「だけど、それでも奴らは人間には抵抗できない筈じゃあなかったのか?」 「俺も今、それを考えていたよ」  鷹は顎に手をやり、その彫りの深い顔を引き締めた。  Gはその横顔を何げなく眺める。彼はそういう時の友人の顔は結構好きだった。  一つ一つのパーツが整っている、という訳ではないが、伸びかけた明るい茶の髪と共に、何処かアンバランスなようで、奇妙にバランスを取っているその表情が。尤もそれは真顔の時、という条件つきだが。
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