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上空から眺めた都市の中は想像以上に入り組んでおりさらに多くの人間がひしめきあって暮らしていた。 人の合間を縫い、建物の中も外も関係なく突っ切り、息をつく暇もなく追い立てられる状況から無我夢中に逃げて行き、ようやく追っ手を振り切ることが出来た。 濁った水が流れる川は人工的に作られたもので幅は狭い。両岸をコンクリートや木造の古くぼろい家が密集して建っており、人目など気にせずに干された洗濯物や干物、通りに転がるゴミなどがこの地域で暮らす人たちの程度を想像させる。 日はすっかり落ちてずらりと吊るされた提灯で囲われた場所は屋外で食事が取れる食堂のようだった。 子連れ客、酒瓶を抱えた一人客、陽気に酒を酌み交わすグループと多すぎず少なすぎない客で賑わうその場を雪十は少し離れた場所から見ていた。 あの中には自分を狙う人間は居ないようだ。 ようやく安全な場所にたどり着いたと判断すると雪十は深いため息をついた。 結局手元にあるのは内股に隠していた銃一丁でスマホはおろか現金すらも所有していない。 憧燿と直接連絡を取る術はなく自分がどこに居るのかさえ分からない状況に雪十は頭を掻いた。 すると視界の端で配膳をしていた腰の曲がった初老の女が話し掛けてきた。 中国語で話しかけてくる女に雪十は戸惑い気味に首を横に振って分からないことをアピールする。 すると持っていたお盆を雪十に押し付けてその顔に手を伸ばした。 冷たいタオルが雪十の頬に当たる。全力疾走で走り続けていた体にその冷たさはとても心地良かった。 元々細い目をさらに細めて孫の世話を焼くように顔を拭いてくる女に雪十は困惑しかなかった。 そして、気付く。顔を拭くタオルには返り血が付いていることに。 顔に血を付けて現れた異国の女か男かも怪しい人間の世話を平気で焼く女を雪十はただ黙って受け入れるしかなかった。 綺麗になった顔に満足そうに頬をぺしぺしと叩く女の様子から多分、性別を間違われているのだけは察した。 するとその後ろからさらに声が掛けられる。 三人で飲み合っている男たちの一人が酒の入ったコップを持ち上げて手を招いていた。 あまりにも寛大な態度で迎えられる状況にもしかしてこの食堂に居る人間全員が本当は自分を狙っている奴らなのか?と言う疑いも過ったがすぐに勘ぐり過ぎだ、と判断した。 吸い寄せられるように踏み出すと不意に優しい風が辺りを過る。 川沿いに植わっている大きくしなだれた柳の木がざわめくとその袂に黒い着物を着た男が佇んでいた。 一瞬、何が起きたのか分からないと言うように客たちは目を大きくさせたがすぐにもとの時間へと戻り、急に現れた黒い男=憧燿を気に留める者は誰もいなかった。 持ち上げたコップを流れるようにな動作でけ取ると憧燿は一気に中身を飲み干して男に返した。何か言葉を添えて。 憧燿の説明に納得したのか男たちは何度も頷きまた歓談へと戻っていく。 自分の方へと歩いてくる憧燿を止まって待っている雪十。状況を察して雪十から離れて行く女もまた憧燿にお辞儀だけをして去って行った。 「遅ぇよ」 雪十の悪態に憧燿は首を傾げた。 「白馬の王子としては最高のタイミングだろう?」 真顔で答える憧燿に雪十は突っ込みを入れる気力すらもなく彼の腕の中に納まった。
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