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カツカツとヒールの音を響かせて廊下を闊歩する女性管理官はテレビで見かける女ボスの呼び名が似合う女優に雰囲気が似ていた。
彼女が持っているバインダーには自分の履歴書が入っていたがもちろん雪十本人が書いたものではなくて実際、何が書いてあるかも雪十自身把握していなかった。
陽に指示されて入った建物では案内役の人間が頭を下げて自分たちを待っていた。
通された応接室には管理官のこの女性と配属先の係長が居り、雪十は陽のアドバイスの通り、履歴書に虚偽はない、と言うことだけを答えるだけだった。
「あなたが配属される所は特殊事件捜査係。管理は公安警察になるのだけれど係の存在そのものが別の部署とは独立した存在であるの。一言で特殊事件と言っても内容は多岐に渡るから広い捜査権限と特別待遇はあるわ。ただ、時間で区切るような働き方は出来ないし命の危険も大きいからー」
管理官の説明を雪十は特に驚きもせずに聞いていた。
「潜入捜査官としてのキャリアがあるあなたには余計な説明だったわね」
「結局俺は何をすれば良いんだ?」
「簡単よ。あなたの得意とする何たら術を使って事件を解決してくれれば良いわ」
「管理官。陰陽術です」
すかさず係長が横からフォローを入れる。
「そう。それそれ」
二人の会話に今度はめちゃくちゃ驚いて雪十は聞き返した。
「俺が陰陽術師だって?」
すると背後を音もなく歩いていた憧燿の手が唐突に伸びて雪十の口を塞いだ。
「主、声が大き過ぎる」
案内される先がどんどん人気の少ない建物の奥になっているのは分かっていたが職員が居ないワケではない状況だったのでこの話を聞かれるのはマズイ状況であった。
「主は特筆した才能を持つ陰陽術師であるが故にその性格や言動も変わっているところがある。どうかご理解いただきたい」
憧燿のフォローに雪十は「キャラ変もいいとこだろ!」と心の中でツッコミながら口を塞ぐその手を振り払った。
「俺は変人じゃねぇ!余計なこと言うな」
憧燿に睨みをきかせる雪十を見て係長が一滴の汗を垂らした。
「確かに、あの鬼才の陰陽術師と言われる憧燿を倒して自らの傀儡として使役するだけのことはあるな。あの悪魔がこれほど従順になるなんて…」
あの履歴書にはそんな設定が書いてあったのか!?と瞬時に雪十は理解した。
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