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怒鳴ったと同時に長方形に繰りぬかれた間口の上側から太く黒い紐状のものが垂れ下がった。 直径10センチほどの黒いそれは近づいていくにつれて何なのかがはっきりとしていく。 三つの束で編まれた黒く太い紐は真っ赤な細い紐でちょうちょ結びに先を結われて、開口部に垂れ下がっていた。 それを両手で掴むと彼は床を蹴って建物の外へと飛び出した。 ターザンロープの原理で弧を描いて飛んでいく彼に追いかけていた犬たちも勢いよく外へと飛び出し、そして地上へと落下して行く。 間口の向こうにぽっかりと顔を見せた巨大な紅い月に蹴りを食らわせられそうな状況だったが握っていた紐がその勢いを止めて逆方向へと力が加わる。 上下がひっくり返った状態で彼は地上へと落ちていき悲鳴を上げて鉄筋に串刺しになっていく犬たちを見ていた。 その動きはコマ送りのようにゆっくり見えていて不思議な感覚に陥ったがすぐに現実が目の前に迫った。 自身の体に掛かる重力が一気に地上へと引きずり下ろしに掛かったからだ。 襲い掛かる恐怖が無意識に紐を握る手に力を込めさせ、声を上げさせる。 「早くしろ!憧燿!」 その言葉と同時に握っていた紐が意識を持ったかのように彼の体を引っ張りに掛かった。 引っ張られる先には屋上があって朽ちた縁に立っていた男は無地の黒い着物をはためかせて彼を見つめていた。 長く艶やかな黒髪を三つ編みに束ねており、彼はその長い長い髪の先を掴んでいてまるで童話のラプンツェルの状況であった。 童話の中の話で現実問題、人の髪がそこまで伸ばせることそのものが科学的にはあり得ない状況なのだが、さらに男はその髪の毛をしゅるしゅると短くさせていった。 振り子の原理から今度は慣性の法則で掴んだ髪が引っ張る方向へと彼の体は引き寄せられていく。その先には両腕を広げる男=憧燿が居た。 紅い月を携えてまっすぐに自分へと向かってくる姿を迎える憧燿の表情は無なのだが憧燿の胸に飛び込んでいかざるを得ないこの状況を心底喜んでいることを彼は理解していた。 そして、そうしなければ死ぬしかない状況で拒否権など一切ない自分の状況に彼は複雑な想いで憧燿へと手を伸ばした。 想定していた衝撃はなく、優しい弾力で憧燿の腕の中に飛び込むと包み込まれる柔らかな着物に本能が安堵する。 「怪我はないか?雪十」 両膝を揃えられた状態で体を抱き止められ、すぐに下ろすかと思ったらどうやら憧燿にそのつもりはないようだ。 自分よりも身長も体重も越されている憧燿に抱き込められてはもがくことも出来ない。 素直に憧燿の首に抱き着いて彼=雪十は答えた。 「ない」
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