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壁や天井を縁取る美しい飴色の木材は床板まで同じ材料、質であつらえられていて統一感と共に高級感を漂わせている。 天井の一部を凹ませて吊るされた伝統的な照明は使われる和紙にすらも品質にこだわった一品で庶民はなかなか手の出せない代物だ。 広い部屋を応接間と寝室スペースで分けるのは壁ではなく床板と同じ材木で作られた飾り棚でその高さは天井に届くまで高く、人が通る部分を丸く繰り抜いて作られている。 壁に取り付けられた絵や掛け軸、部屋のあちこちに飾られた調度品。そのすべてが中国の歴史と伝統の趣と深さを語っており、まさしく言葉に出来ないほどの美しさと完璧なバランスを保ってこの部屋を使う人たちをもてなしていた。 和紙で作られたブラインド越しに感じる朝の陽射しに雪十は目を覚ました。 クイーンサイズのベッドは毎日シーツが交換されてスプリングの強度も心地良く、憧燿と二人で寝ても狭さや寝苦しさは一切感じないクオリティだ。 何故あの時、今回だけ2回にしてやる、と言わなかったのか?と後悔しても今さら遅くて今朝は本当に朝まで憧燿は自分を離してはくれなかった。 その憧燿は自分の横で眠りに落ちていて、その寝姿はあまりに美しくだけど生気に満ちていないから時々鼻先に指を近づけて彼の寝息を確かめてしまう。 憧燿が生きているのを確かめると雪十は気怠い体を転がして起き上がろうとした、時にようやくその存在に気が付いた。 「おはよう。雪十」 両腕を組んで仁王立ちの姿勢で円形に区切られた飾り棚の中央に居たのは 「ウェン・チャオ!」 腰まで伸びた黒髪をオールバックにして中国の伝統的な服を好んで着るその男はまだ三十路手前の若きマフィアボスだ。 憧燿との付き合いが長いのは彼の父親が憧燿を買っていて傍に置いていたからウェン・チャオは幼い時から憧燿を知っている。 「仲が良いのは分かっているが私との朝食の約束をすっぽかすのは許されない行為だぞ」 ずり下がった布団から露わになる上半身を慌てて隠して雪十は聞き返した。ウェン・チャオとの朝食の約束など雪十は知らなかったからだ。 「そう言えば、雪十に伝えておくのを忘れていた」 音も立てずに背後で起き上がった憧燿が急に声を発したので雪十は声にならない叫びで驚いた。 「憧燿?」 満面の笑みをたたえながら額に怒りのマークが見えるウェン・チャオに顔色一つ変えず憧燿は頷いた。 「雪十は疲れている。日を改めろ」 「ダメだよ。今から着替えて出て来なさい」 頬を引きつらせたままはっきりと告げるウェン・チャオに彼の本気度と怒り度が分かったので憧燿と雪十は素直に応じた。 何故ならこの屋敷はウェン・チャオのものだからだ。
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