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さよなら
「ここまでしてくれなくても良いのに…嬉しいけど…貴方脚が悪いみたいだし…」
彼女と僕は帰る方角が正反対なので、ホームまで見送りに来たのだが
大丈夫ですよ、京都駅はエスカレーターがあるんだから!
別れた後も僕の身を気遣ってくれるのは、正直有り難い事だ
帰りの電車を待つ間、結婚前の事、結婚して子ども達が生まれてからの事と、元夫婦だけに話題が尽きることはなかった
今日だけは「元」ではなく、時間が巻き戻ったようだ
彼女も大谷本廟で会った時よりもぎこちなさが抜けたようだし、時折腕と腕が触れ合う近さにまで接近しているし
が、無情にも?別れの時間はやって来るモノで
彼女が乗る電車がホームに入って来た
一瞬彼女が名残惜しそうに見えたのは気の所為か
「あー、お腹いっぱい!今日は本当にラッキーだった!帰りのタクシー代からご飯代まで出してもらえたんだから!」
満面の笑みで
あ、そう言う事ね…
「それに…貴方に会えたのが一番かな!元気にしているみたいで良かった!お礼もちゃんと伝えられたしね!」
僕の左の耳元で囁くように
電車のドアが開き、元嫁が乗り込むその瞬間
お父さんとお母さんによろしくお伝えください
そう告げるのがやっと、そんな人波に背中を押された彼女を見送った
電車の扉が閉まり、こちらを向いた彼女、どうやら窓際の座席を確保したようだ、が僕に手を振る
そう、恋人同士だった時に「ただいま」したように
その手は僕が彼女の姿が見えなくなる瞬間まで続いて見えた
きっと向こうも気付いていたんじゃないかな?
たぶんこれが最後の逢瀬だと
さて、今度は僕の番だ
彼女は北へ、そして僕は南へと帰らなくては
今僕の帰りをたぶん待ってくれている人達のところへ
あ、実家経由だけど
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