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「相変わらず柔らかい手…これで本当に旅行会社の事務職が勤まってるの?」
その大きなトートバッグからウェットティッシュを取り出し、そんなの持ってるから荷物が多くなるんですよ、僕の左手の指先を拭いてくれながら
まぁ、何とか
ここはお茶を濁すに限る!この手が数多の人を殺め、僅かながら人命救助出来た事を彼女は知らないのだから
そう言えば苗字を変えていないとか?
「今更再婚なんて、ねぇ?貴方もそうなんじゃないの?それに田舎は情報が広まるの早いから」
寂しそうに言いながら見せてくれたのは僕とお揃いの結婚指輪の嵌まった左手だ
…まぁ、そうですね…
言えない…南の島での若い女の子に囲まれて毎日刺激的な暮らしを送っているなんて…秋ちゃんと冴香さんが若いかどうかは兎も角!
「まぁでも今日はラッキーかな?」
急に満面の笑顔になった彼女
ん?何があるんです?
「ここで貴方に会えたって事はよ?京都駅までのタクシー代にお昼ごはんにおやつまでゴチになれるじゃないの?まさかあたしに一人で帰れとは言わないわよね?」
ちゃっかりしている…タクシー代とお昼ごはん代くらいは…そう思っていたがまさかまさかのおやつまで要求されるとは…
後で領収書もらおう…
そう思いながら、僕は左手を上げてタクシーを停めて、京都駅へと行き先を告げた
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