弟の声、兄の音

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 なぜ突然押しかけてしまったのか話せない絹都に、兄は少し考える素振りを見せた後、女性を何人も虜にできそうな顔で微笑んだ。 「絹都、一緒に来るか? 絹都に見せたいものがあるんだ」  見せたいもの、の時間まで2時間空くため、先に夕飯を食べることになった。  絹都は兄の退勤まで図書館で待たせてもらい、車に乗せてもらって兄の家に向かう。 「アパートやマンションは無いから、リノベした一軒家を借りているんだ。畑付き、梅の木と柿の木付き。夏は毎晩蛙の大合唱」  村の施設から離れた坂の上に、兄の家はあった。家の前の畑は夏野菜の苗が茂り、巨大な梅の木と、色づき始めた柿の木がある。 「絹都、何が食べたい?」  聞かれ、絹都は特に希望は無いと伝えた。 「じゃあ、そうめんにするか。モロヘイヤを乗せて、すりごまをかけると美味いんだよ」  そうめん、モロヘイヤ、すりごま。その言葉を聞いただけで、腹が鳴った。 「すぐ茹でるから、待ってな」  兄はリビングのエアコンをつけてくれた。自分は畑に行き、絹都はリビングで待たせるつもりらしいが、絹都も畑についていき、兄と一緒にモロヘイヤを収穫した。キッチンで、そうめんもモロヘイヤも茹で、氷で割った汁にそうめんとモロヘイヤ、すりごまをつけて頂く。 「どう……?」  恐る恐る尋ねる兄に、絹都は首がもげるほど頷いた。そうめんを食べたのは、何年ぶりだろうか。モロヘイヤは生まれて初めて食べた。兄と再会できたのが、昔に戻ったみたいで嬉しかった。
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