ただいま

6/7
前へ
/7ページ
次へ
 やっと退院の許可がおりて、今日、家へと帰れることになった。  大翔には何度も退院するする詐欺で、期待させては落胆させることが続いていため、今日の退院は知らせていない。    あいつ、泣くかな……。  手術前の化学療法で抜け落ちた髪の毛、やせ細った姿の俺をこわがるかな。  一度、お見舞いに来てくれた時に、チラリと見せた大翔の怯えた顔が忘れられない。  あいつ、心配性の弱虫だからな。  大翔の反応に不安を抱きながら、俺は迎えに来てくれた母さんと共にタクシーで実家へと帰ってきた。  「将弘(まさひろ)くん、退院おめでとう」  タクシーに乗り込んだ時、母さんはそれだけ言うと、瞳に涙を浮かべて、俺の腕にそっと触れた。    「ただいま」  俺がそう言うと、母がにこやかに「おかえり」と言った。俺は、久々の実家へと上がって、リビングのソファーに重怠い体をあずけた。  久々の病院の外の世界に、まだ体力が追い付かないのだ。  俺は、深い眠りに落ちた。  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加