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「兄ちゃん、ゴメン……僕……」
僕は、お見舞いに行けなかったこと、後ろめたい気持ちを謝ろうとした。
それなのに兄ちゃんは「大翔、ありがとな」と、僕の言葉を遮って、優しく笑った。
痩せて別人みたいな兄ちゃんだけど、その笑顔は僕の大好きな兄ちゃんの笑顔だった。
「うあぁぁぁぁ……」
僕は、また声を出して泣いた。
「今ここにいられるのは……俺は大翔がいたから頑張れたんだ……。それと、入院中にくれた大翔のイラスト入りの手紙とか、写真とか、嬉しかったよ」
兄ちゃんは静かにそう言った。
「だって……そんなことしか……」
会いにいくのがこわくて、でも何かはしたくて、手紙を書くってことに逃げただけなのに……。
後ろめたくて、心がモヤモヤして、僕は俯いて自分の足を見た。
「っていうか、大翔イラスト下手すぎ! 笑っちゃって、腹のキズが開くかと思ったわ!」
兄ちゃんはそう言って、「マジ殺す気かー!?って思った」と、お腹を抱えて笑った。
兄ちゃんがあまりに本気で笑うから、つい、僕もつられてゲラゲラ笑ってしまった。
あぁ、兄ちゃんだ。
良かった。本当、良かった……。
戻ってきてくれた。帰ってきてくれた。
僕は、ゆっくりと兄ちゃんの元へ近づいた。そして、兄ちゃんの負担にならないように、ゆっくりソファーの隣に腰を下ろした。
「にぃちゃ……おがえりぃ……」
そう言って遠慮がちに体を寄せた僕の頭を、兄ちゃんはぐしゃぐしゃと撫でた。
にいちゃんの目にも涙が浮かんでいて、鼻が赤くなっていた。
「心配かけたよな……こわかったよな。ごめんな……」
「うぅぅ……」
僕は兄ちゃんの肩におでこをのせた。
「大翔、ただいま」
優しい声色で兄ちゃんが囁く。
その兄ちゃんの"ただいま"が、僕の不安や心配を少しだけ遠ざけた。心がじんわり温まっていく。
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