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やっと退院の許可がおりて、今日、家へと帰れることになった。
大翔には何度も退院するする詐欺で、期待させては落胆させることが続いていため、今日の退院は知らせていない。
あいつ、泣くかな……。
手術前の化学療法で抜け落ちた髪の毛、やせ細った姿の俺をこわがるかな。
一度、お見舞いに来てくれた時に、チラリと見せた大翔の怯えた顔が忘れられない。
あいつ、心配性の弱虫だからな。
大翔の反応に不安を抱きながら、俺は迎えに来てくれた母さんと共にタクシーで実家へと帰ってきた。
「将弘くん、退院おめでとう」
タクシーに乗り込んだ時、母さんはそれだけ言うと、瞳に涙を浮かべて、俺の腕にそっと触れた。
「ただいま」
俺がそう言うと、母がにこやかに「おかえり」と言った。俺は、久々の実家へと上がって、リビングのソファーに重怠い体をあずけた。
久々の病院の外の世界に、まだ体力が追い付かないのだ。
俺は、深い眠りに落ちた。
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