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青空高くイワシ雲。
どこからか赤トンボが飛んできて、しばらくの間ホバリング。
サワサワと吹き抜ける風は冷たく、乾いていた。
もうすっかり秋だな……。
学校帰り、僕は道端に転がる小石を蹴りながら、誰もいないガランとした家へと帰る。
家の前まで来たところで、学校から家路までの相棒だった小石に別れを告げた。そして、僕はランドセルのベルト部分の金具にひっかけたキーケースから家の鍵を引っ張り出し、鍵穴に通した。
「ただいまー!」
返事はない。
まぁ、はなから期待もしていないけど。
僕は防犯対策のため、誰もいない家に入る時にも、大きな声で"ただいま"と言うようにしている。
半年ほど前、警察の人が学校に来て、自分の身を守るために出来ることという防犯教室で教えてくれたのだ。
だが、実践して感じたことは、返事のない"ただいま"は寂しくて、虚しいということだった。
やっぱり"おかえり"あっての"ただいま"なのだと僕は思う。
玄関に入ると、脱ぎそろえられたスニーカーに気がついた。
見覚えのある二十七センチの白のスニーカー。
――嘘!?
僕は慌てて靴を脱ぎ捨てた。
あまりに慌てすぎたため、つま先が玄関の段差に引っかかって転びそうになった。前のめりになった体勢をどうにか整えて、僕はリビングの戸を勢いよく開けた。
「兄ちゃん!?」
ソファーに深く腰を掛けて、居眠りしていたらしい兄ちゃんが、僕の声にビクっと体を揺らした。それからゆっくりと、僕の方へ視線を向けた。
黒いニット帽を目深にかぶった兄ちゃんが、眩しそうなものを見るように目を細めて力なく笑った。
「おぉ、大翔。おかえり……」
僕は感極まって「兄ちゃんだぁぁぁぁー!」と、泣いた。
次々と涙が溢れ出て、何度も何度も「兄ちゃんだ……えぐっ……兄ちゃん……」と、嗚咽交じりに兄ちゃんを呼んだ。
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